高橋睦郎 / 待たな終末
「いつかヒト滅び世界も滅ぶればわが言葉いまを輝き滅べ」
「幼な子に世界は言葉 言葉なる世界のめぐり動くもろもろ」
「言葉なる世界と世界なる言葉その鬩ぎにし訪ひこしか詩は」
「沈黙より言葉生まるる草や木の木の影より光現るるさながら」
「七十億滅びこの星滅びなばそを記憶せむぬばたまの闇」
「黙示録その騎士四人わが裡の四方にこそ吹け滅びの喇叭」
「極小の神分裂し増殖しわれら逃げ惑う七十億のわれら」
「眞夜を讀む人眠らせぬ一語だにわが詩にあらば眠らむを永遠に」
「旅を行く星を産み呑みぬばたまの闇の洞こそ旅行け永遠に」
「十字架の根やいづちより土深く眠るアダムがされかうべより」
「終末をむしろ嘉せむ吾と汝の差別の因も果も消失すれば」
「夜の終り呼ばはる聲す二千年前ユダヤの荒野より」
「終末はそも何処より無の子なるわれらが裡の深き淵より」
「審判の日に立ちあがるあやつりの糸の繋げし骨のつらなり」
「世の終り未だしとせば世の人のひとりひとりの終りいかにぞ」
「風かよふ水垂り洞に葬りたる屍腐るは疾く骨となる」
「肉-骨に 骨-水に 水-風に 無に ただに明るし 後生の時間」