この記事ではポストパンクについての私見と個人的に気に入っているアーティストのレビューを綴っていこうと思います。傾向としてはゴシックなアーティストを列挙するつもりです。素人の個人的嗜好に沿った見解と選択であり、体系的に歴史を纏める為の記事では無いので抜けや不備、間違いが多々あると思われます。ご容赦下さい。
・1980年代初頭のポストパンク。
活動開始時期を顧みるとJoy Divisionの結成が1976年、Magazineの結成が1977年、Bauhausの活動開始が1979年、PILの結成が1979年でその辺りの時期がポストパンクの始動と言えると思います。広義のポストパンクのルーツは前述したバンドなのでしょうが、この記事で主に取り上げるゴシックな要素を持ったバンドのルーツはJoy DivisionとBauhausだと断言できると思います。
・Joy Division
元祖ポストパンク / ゴシックロックであり、伝説的なロックスターであるイアン・カーティスをメンバーに抱えたロック史に残るバンドというのが共通認識かと思います。余談ですが、The SmithsもJoy Divisionも共通してBuzzcocksについて積極的に言及しており、ポストパンクのルーツの一つとしてBuzzcocksのパンクロックの定型から逸脱したスタイルがあるのかなという印象を受けました。
・最終作、Closer
イアン・カーティスの死後発表された2ndアルバム。Unknown Pleasuresよりゴシック性と陰鬱さ、歌詞の内省性と文学性が際立ち、深化という言葉で片づけたくは無いですがバンドの音楽性がより優れたものになっているのが伺えます。特に「24 Hour」、「The Eternal」、「Decades」と続けて聴くとバンドのゴシックかつ退廃的、それでいて審美眼に優れた透徹した美学が伺える様に思います。「24 Hour」の陰鬱さとダークな高揚感が同時にある感覚が個人的な聴き所です。ジャケットの写真はイタリアのアッピアーニ墓所で撮影されたものらしいです。
「全てが上手く行かない事に気づいた。新しい治療法を見つけなくちゃいけない。この治療法には時間が掛かりすぎる。シンパシーに支配された心の奥底で、手遅れになる前に私の運命を見つけてくれ。(24 Hour)」
・Bauhaus
漆黒のサウンドとアートワーク、ピーター・マーフィーのカリスマが強烈なゴシック・ロックの先駆者ですね。ネット上に詳しい記事が無数にあると思われますので言及は差し控えます。名盤ばかりですが、個人的にはIn the Flat Fieldのエナジー溢れる作風が好きです。
・1980年代後半~90年代のポストパンク。
・The Birthday Party
ニック・ケイヴ率いる伝説的ポストパンクバンド。シアトリカルなセンスとダウナーさと高揚感が同居する様な特有の感覚、ノイジーなギターとニック・ケイヴの強烈な歌唱が印象深いです。ゴシックな演劇性と攻撃的な楽音。
・Christian Death
カリフォルニア産元祖デス・ロック。劇画的な反キリスト教性とルードな精神性、サタニックなアートワークが魅力的です。活動中期からメタルに転身していて、1988年リリースのSex and Drugs and Jesus Christが転換期に当たるのだと思います。劇画的サタニズムと死への情念。
・The Cure
ロバート・スミス率いる誰もが知るニューウェーヴ / ゴシックバンド。ネット上に詳しい方が無数にいらっしゃるので僕が語る事は無いのかもしれないですが、彼らの楽曲のポップネスと淡いゴシック性が好きで折を見て聴き返してます。影響元としてはSarah RecordsのAnother Sunny Dayが挙げられると思います。ペイルゴシックな精神と珠玉のポップ性。
・Eyeless In Gaza
1980年から現在まで活動を続ける、映像的かつ耽美で特異な音響とヴォーカルが際立つイングランド産ポストパンク。実験的でありながらネオアコースティック / ギターポップに通じる様な音楽性を持っていて好感度が高いです。下記の音源はリズムを注視すると前作よりシンプルになってしまったのですが、その分ポップさが際立っていて個人的なベストという感じです。The Cureのポップセンスに通じる所を感じますね。
・This Heat
実験性とインダストリアルに通じる病んだ質感、強烈な轟音が印象深い伝説的ポストパンク。へヴィーなリアリティーが主題にある様です。個人的には2ndが好きです。
・Dead Can Dance
ワールドミュージックや古代宗教音楽の要素をゴシックミュージックとマッシュアップする1980年代から現在まで活動を続ける伝説的グループ。初期の作風は兎に角闇が深いゴシックミュージックという感じですが、中期から後期は前述した通りワールド・ミュージックや古代の宗教音楽の影響を取り込んでおり、異端的音響として完成された音楽になっています。下記の音源は比較的初期に当たり、声楽へのアンチ・キリスト的な換骨奪取の意思が強く感じられるゴシックな音響となってます。彼らのファンなのでいつかはライブに行きたい所です。
・Depeche Mode
1980年のエセックスで結成された元祖シンセ・ポップ / ゴシックバンド。著名なバンドですので言及は差し控えようと思います。本国ではスタジアム級の人気を誇るバンドですが、日本での人気が周辺ジャンルのファンのみに困惑させられます。 2020年のロックの殿堂入りが目出度いです。
・The Membranes
1980年代初期から現在まで活動を続ける伝説的ポストパンクバンド。 1986年作Kiss Ass, Godhead!に収録されているViva! Spanish Turncoatで見せたヴォーカルの加工とビートの感覚はダークウェーヴ等を顧みても先鋭的なものだったのだろうなと思いますし、王道を行く楽曲展開のElectric Stormも今聴いても古びていないと思います。
・The Cleaners From Venus
ポップセンスが際立つ楽曲群とリアリズムに根差したリリックが印象深いです。ゴシックなバンドでは無いですが、個人的に気に入っているので言及しておこうと思います。
・Killing Joke
ロンドン出身で現在も活動する伝説的なポストパンクバンド。このバンドも詳しい方が多数居られますし、僕もそこまで詳しくないので言及は差し控えようと思います。個人的には初期のNW路線も良いですが、Hosannas from the Basements of Hellで見せたメタルとのクロスオーヴァー路線が好きです。
・Mephisto Walz
1985年にアメリカで結成された伝説的デス・ロックバンド。Christian DeathのBarry GalvinとJohn Schumanがバンド脱退後に結成したバンドです。Christian Deathと比較するとエセリアルな感覚が強く、ある種の聖性を感じる様に思います。
・New Order
Joy Divisionの後進であって伝説的なシンセ・ポップバンドであり、今も世界各地でツアーを行う現役のミュージシャンですね。このバンドも詳しい方が多数居られると思うので細かい言及は差し控えようと思います。個人的なベストはLow-Lifeですが、Get Ready以降の漂白された楽音と宗教的なエネルギーも捨てがたいです。
・Nick Cave & The Bad Seeds
ニック・ケイヴ率いる現在も活動を続けるポストパンクバンド。The Birthday Partyと比較するとシアトリカルなセンスと歌詞の内省性が増した様に思います。詳しい記事が他にもあるので言及は差し控えます。
・Nosferatu
ロンドンにて1986年に結成されたゴシックロック。ビートからギターまですべてがゴシックで好感度が高いです。憶測ですが、下記の楽曲を聴くとゴシック・メタルのルーツに当たるのではないかと。多少ノスタルジックに響く所はありますが、現代でも聴ける稀有なゴシックロックだと思います。
・The Pop Group
ブリストル発先鋭的ポストパンクであり既に鉄板として評価されるミュージシャン。ダブとポストパンクのマッシュアップがコンセプトなのだと思いますが、それだけでは説明の付かないブルータリティを抱えている気がします。
・The Wedding Present
インディーロック的なキャッチーな楽曲と親しみやすさが特徴的な1987年から活動を続けるポストパンクバンド。このバンドもマニアックに掘り下げている方が多数居られるので言及は控えます。
・2000年代のポストパンク。
この時期のデスロック / ゴシックロックが本当に好きなのですが、リアルタイムで聴いていなかったので2バンドしか取り上げられていないです。完全に執筆者の力不足です。
・Deadchovsky
徹頭徹尾ゴスで破滅的な2004年に活動を開始したポストパンク / デスロック。Spiritus Sancti Bizarreのジャケットが象徴する様に徹底して反キリスト教性を前面に打ち出していて好感度が高いです。Christian Deathの文脈に属するのかと思います。
・the Deadfly Ensemble
シアトリカルかつ徹底的にゴシックでダーク、囁くようなヴォーカルが特徴的な2000年代後期に活躍したポストパンクバンド。奇妙な映画を観ている様な、映像的な音楽でもあります。Sopor Aeternusの強い影響を感じます。
・2010年代以降、現行ポストパンク。
個人的に関心を持っているのがこの時期のポストパンクという事もあり、少し数が多くなっております。私見なので間違いかもしれませんが、大きく分けてNWの影響を取り入れる一派とゴシック / デスロックに傾倒する一派、80年代ポストパンクに回帰した一派がある様に思います。ここでは後の二者に属するバンドを列挙したいと思います。
・The Agnes Circle
80年代へのロマンティックな回帰とメランコリー、バリトンヴォーカルと構築度の高いゴシックな楽曲が美しく調和する現行ポストパンクデュオ。メランコリックで美しい楽曲に魅了されっぱなしです。
・All Your Sisters
悪夢的アトモスフィア漂う暗黒ポストパンク。荒廃したホラー的にも映る世界観とダークウェーヴの影響が印象深いです。インダストリアルな趣も感じます。
・ALIBICOUNTS
日本産現行ポスト・パンク。スティーヴ・アルビニの録音かと見紛う様な剥き出しでラウドなサウンドと強烈な高揚感が魅力的です。兎に角格好良いのでお薦めです。
・Bambara
スタイリッシュでダークな洗練された感覚とニック・ケイヴの様な露悪的にも聴こえるバリトン・ヴォーカル、完成度が高い楽曲群がどこまでも格好良い現行ポストパンクです。会う知人全員にこのバンドを推しているのでそろそろ迷惑な気もしてます。
・Blu Anxxiety
デジタルで荒廃した世界観とアナーキーな精神性、破壊的な楽音が際立つ現行ポストパンク。ニヒリスティックな姿勢が好感度高いです。積極的に新譜をリリースしている様で、今後の展開にも期待したいです。
・Body Stuff
悪夢的な感覚とルードな精神性、ハードコアパンクにも通じる楽曲展開を前面に押し出す2019年にデビューした現行ポストパンク。悪夢的テイストを伴って疾走するSpiesが近作だと冴えている様に思います。
・Cat Party
カリフォルニア産現行ポストパンク。80年代の諸作を彷彿とさせるオールドスクールな楽曲展開とサウンドが持ち味だと思うのですが、兎に角完成度が高く人にお薦めできる内容となってます。スタンダードな趣を感じますね。
・Charnier
王道を行くJoy Division直系の現行ポストパンク。歌唱法と声色がイアン・カーティスにかなり近く、その辺のファンの方が気に入りそうな内容です。
・Cemetery
死を直截的に想起させる様な強烈なサウンドを持ったポストパンク / デスロック。XVVXのゴシックに疾走する展開と緊張感、強烈なエネルギーはシーンを見渡しても類を見ないと思います。Infidelと並んで個人的な現行ポストパンクのベストです。死への接近と張り詰めた緊張、ゴシックなリフワーク。
・Chain Cult
ギリシャ発現行ポストロック。デスロック的なフレージングを採用しつつも王道ポストパンクに留まっているのが特色なのかなと思いました。張り詰めたヴォーカルが格好良いです。
・Crowd of Chairs
Throbbing Gristle文脈のアナーキーでインダストリアルなヴォーカルとビート、脱力した感覚、構築度が高い楽曲展開が魅力的に映りました。彼らの様なバンドの音源を聴くとポストパンクとインダストリアルが近いジャンルだという事実を想起させられる気がします。
・Curse
デペッシュ・モードがモダナイズと先鋭化を迎えた様な現行シンセ・ポップユニット。ダークウェーヴとインダストリアルの影響を受けているのだと思いますが、最終的にデペッシュ・モード的なシンセ・ポップに回帰しているのが興味深いです。試聴音源が見つからなかったのでBandcampのリンクを貼っておきます。
https://fakecrab.bandcamp.com/album/metamorphism
・Girl Band
2011年にダブリンで結成された現行ポストパンクバンド。ビザールで精神病的な感覚と脱臼したリズムが高度な音楽性の中で纏まっている印象を受けます。Holding Hands with JamieのジャケットはGrayのFade of宛のオマージュですね。
・Haunted Horses
シアトル発現行ポストパンク。破壊的に打ち鳴らされるインダストリアルなビートとシンセが兎に角格好良いです。KEXPでのライブの実績がある通り、かなりの人気を博している様ですね。
・Hemgraven
詳細不明なゴシック路線のポストパンクバンド。Klubb Död Compilation, Vol. 1というコンピレーションで知ったのですが、知名度が低いのが信じられない位高水準のポストパンクを演奏しています。
・His Electro Blue Voice
インダストリアルなノイズの洪水とアナーキーでパンクなアティテュードを発散するヴォーカル、ルードでタフな精神性が好感度高めな現行ポストパンク。リリース元があのSub Popで個人的に驚きました。
・Horror Vacui
ホラー映画的でオカルティックな世界観と徹頭徹尾ゴシックでダークなサウンドが美しいイタリア / ボローニャ出身のアーティスト。メンバーはクラスト・コアのバンドでも活躍するらしいです。
・Iceage
ハードコアパンクとポストパンクをマッシュアップした様な音楽性が印象深い現行のポストパンクバンド。個人的に彼らのデビューアルバムで結構な衝撃を受けました。
・Korine
フィラデルフィア出身、デペッシュ・モード直系耽美派シンセ・ポップ。80年代のシンセ・ポップをアップデートしようという強い意思が伺え、個人的に好感を持っているアーティストです。
・Locean
悪夢の中を徘徊する様なダウナーな音楽性とkaelan Miklaにも通じる女性ヴォーカルが特徴的で格好良い現行ポストパンクです。某所ではThe Birthday PartyとScratch Acidが引き合いに出されてましたが、それも頷ける内容になってます。
・LAURA PALMER'S
シューゲイザーバンドである死んだ僕の彼女のギタリスト率いるデスロック / ポストパンクバンド。Twin Peaksのある種のヒロインであるLaura Palmerの名をバンド名に据えている通り、デヴィッド・リンチの作品の様な悪夢的質感が印象深いです。個人的にはInfidelやCeremony辺りの現代的なデスロックとの共時性を感じます。
・Infidel
現行のポストパンクですが、カナダ出身という事以外の情報を公開しておらず、詳細が謎に包まれているので詳しく調べてみたい所です。アンチ・キリスト的な精神性と病んだ感覚、快楽主義やヘイトを称賛する姿勢が興味深いです。個人的な現行ポストパンクのベストに挙げておきます。現在は活動を停止している様です。
・Isolated Youth
・1stEP、Warfare
ダウナーで呪術的、獣性を感じさせるヴォーカルが際立つ「Oath」、Joy Divisionの24 Hourを彷彿とさせる「Safety」が聴き所でしょうか。獣性とフォルマントに恵まれたヴォーカル、冷たく張り詰めたギター、ソリッドでポストパンク性を体現するベースとドラム。フルアルバムへの期待が高まります。
「ここに安全は無い。貴方にとっても私にとっても。待つ電車も無い。私は孤独だ。(Safety)」
・Kælan Mikla
呪術的かつ透徹した楽音と強烈なデスヴォイスが印象深い現行ゴシックロック。闇の中を漂うような音楽性ですが、強烈な女性ヴォーカルがその中で眩く感じます。
・Mode Moderne
カナダ発耽美派現行ポストパンク。爽やかなインディーロック的感覚とポストパンクの精神が同居しているといった趣が心地良く愛聴してます。Drab Majestyがお好きな方にお薦めできるアーティストだと思います。
・Moira Scar
オカルティックでダークかつダウナーな感覚が格好良い現行デス・ロック。シアトリカルなセンスとデスヴォイスが好感度高いです。下記の楽曲の主題はファシズムと順応への抵抗らしいです。個人的に今推してるアーティストですね。
・NAUT
ブリストル発現行ポストパンク。Joy Division直系のゴシックなリフとシンセで幕を開けるSemeleで始まる最新のシングルが好内容でした。兎に角力強いというか、骨太なサウンドが魅力的なバンドで80年代のポストパンクのファンの方にお薦めしたいです。
・Night Sins
シューゲイザーバンド、Nothingのドラマー率いる耽美派ポストパンク / ゴシック・ロック。個人的にはTo London Or the LakeのNW路線も良いですが、New Graveの耽美で王道を行くポストパンク路線が好きで愛聴してます。
・RAKTA
ブラジル産の徹底的に病んだポストパンク。自閉的にも映る病んだサウンドスケープが格好良いです。悪夢の中を漂う様な感覚で満ちています。自閉と悪夢の快楽性。
・Sextile
強烈なオカルティズムの影響と80年代への憧憬が漂う現行ポストパンク。バンド名の由来も占星術から来るらしいです。ポストパンクには珍しくアンビエントな楽曲が存在するのも見逃せないです。
・Slow Riot
ゴシックで力強いサウンドが魅力的な、残念ながら2019年に解散してしまったポストパンクバンド。インディーロック的なサウンドでもあると思います。
・Soft Kill
ポストパンクとダークウェーヴの境界に位置する様な音響と展開が美しい現行ポストパンク。個人的には2018年作のSaviorをベストに推したいです。
・Soviet Soviet
イタリア発ゴシック / ポストパンクバンド。透徹したゴシックでハイボルテージなサウンドと抒情的で完成された楽曲群が魅力的です。個人的にはFateで見せたゴシックなポストパンク路線が好きです。
・Spectres
2006年から活動を続ける、ポップセンスが際立つ楽曲展開と80年代の闇から抜け出した様な楽音が鮮烈な現行ポストパンク。去年発表されたシングルが素晴らしかったです。
・True Body
リッチモンド発現行ポストパンク。デペッシュ・モードの様なロマンティックなヴォーカルがポップなシンセが印象的なバンドサウンドに乗る展開で格好良いです。重複しますが、デペッシュ・モードやジョイ・ディヴィジョンのLove Will Tear Us Apart Againが好きな方にお薦めしたいです。
・Wax Chattels
ダークウェーヴの影響とモンドで強烈なシンセワークが鮮烈で格好良い現行ポストパンク。ゴシックで型破りな趣を感じさせ好印象です。
・最後に。
相変わらずの拙い文章をここまで読んで下さって有難うございます。正直な所を申し上げると現行アーティストのレコメンドが主な目的なので、一組でも琴線に触れる作家が居れば幸いです。