ベストディスク2021 50~1
今年も良い音楽に恵まれた素晴らしい一年でした。筆者の体力不足で画像とコメントは二十位からになります。ご了承下さい。
50.Alice Gift / Alles ist Gift
49.Saint-Léon / Signs of Saint Léon 2016-2019
48.Sturle Dagsland / Sturle Dagsland
47.Kaelan Mikla / Undir Koldum Nordurljosum
46.Blacklight Chameleon / Tearing at The Edges of All Restraint
blacklightchameleon.bandcamp.com
45.Gloomchurch / Solar
44.(Sic)boy / Vanitus
43.Fire-Toolz / Eternal Home
42.Lunation Fall / Near
41.Asian Glow / Cull Ficle
dbeatdropdeadpowerhead.bandcamp.com
40.Rebecca Peake / July
39.サトミマガエ / Hanazono
38.Ludalloy / Sine
37.THE SPELLBOUND / A Dancer On The Painted Desert
36.Meishi Smile / Ressentiment
35.Japanese Breakfast / Jubilee
34.Cold Cave / Fate In Seven Lessons
33.Julie / Pushing Daisies
32.Paragon Cause / Autopilot
31.Optroquat / From The Shallow
30.Helm / Axis
29.Black Swan(Drone for Bleeding Hearts) / Repetition Hymns
28.Haruka / Wriggle Doll
27.月ノ美兎 / 月の兎はヴァーチュアルの夢を見る
26.QUAL / Tenebris In Lux
25.Youth Code & King Yosef / A Skeleton Key in the Doors of Depression
24.Ms.Machine / Ms.Machine
23.PLASTICZOOMS / Wave Elevation
22.Portrayal of Guilt / We Are Already Alone
21.Sicayda /Sicayda
20.Cathedral Bells / Ether
フロリダを拠点に活動するシューゲイザー・バンドによる2ndアルバム。
1stアルバムは多幸感の強いシューゲイザーの佳作という印象だったが今作で化けたというか、強烈な幻想性を抱えた完成度の高い音楽が提示され、結果的に現行シューゲイザーの最前衛の一角に躍り出た印象を受ける。
何処から聴いても欠点の無いアルバムというのはあまり存在しないが、今作の駄目な点を探す事は難しく、微かにポスト・パンクの要素を漂わせている所も個人的に好きな点だ。
cathedralbellsmusic.bandcamp.com19.Teenage Wrist / Earth is a Black Hole
アメリカ・カリフォルニア州を拠点に活動するオルタナティヴ・ロック・バンドによる2ndアルバム。
シューゲイザー、オルタナ、ハードコア・パンク、エモを消化した上で自分達の音楽として表現する彼らの作品が期待に背く訳は無く、今作も紛うこと無き名作だった。
陰鬱と晴れ晴れとした叙情を両義として表現する様な作風は健在で、モダンなオルタナティヴ・ロックとしてもシューゲイザーが要素として取り込まれた音楽としても珠玉の出来。文句無しの名盤と言える。
18.Grouper / Shade
GrouperことLiz Harrisによる十五年間の音楽の記録。
『Dragging Deer~』で見せた超然とした、つまり宗教的なアトモスフィアの強い音楽や『Ruins』以降の自身の痛みという磁場を中心に聴者を巻き込み傷口を縫う様に響く音楽とはまた趣の異なる、ベッドルームでその演奏を聴いているかの様な親密さに満ちた録音は、リリース以降都市空間の雑踏や荒涼とした郊外、長閑な河沿いや片田舎の牧歌的な情景を行く際の個人的なサウンド・トラックとなった。
間違っても高音質とは言い難い、凡百の作家であれば作品の品質を損ねる様な録音環境でもGrouperの音楽は何ら損なわれる所が無い。それは音楽の核が強靭である事を意味しているのだろうし、主軸に据えられているアコースティック・ギターと歌の演奏がそもそも何の装飾も無く成立する審美性を抱えている事の証明でもあるだろう。
17.Lunarette / Clair de Lunarette
アメリカ・ニューヨークを拠点に活動するドリーム・ポップ・バンドによる1stEP。メンバーの殆どが珠玉のシューゲイザー・バンド、Gingerlysの元メンバーでもある。
多幸感と幻想、と言ってしまうと簡単に過ぎる。近年のドリーム・ポップの潮流やMr Twin Sister的なある種のスペーシーな質感を持った完成度が高い作品で、歌の旋律の洒脱さやサウンドの完璧な構築性、楽曲展開が持つ美しいドラマ等この種の音楽として完璧で、ドリーム・ポップ史に記述するべきバンドなのは間違いないだろう。
今年のドリーム・ポップだと間違いなく個人的なベスト。より広く聴かれて欲しい。
lunarette.bandcamp.com16.FRITZ / Pastel
オーストラリア・ニューキャッスルを拠点に活動するシューゲイザー・バンドによる1stアルバム。
Black Tambourineが開き、Westkustがモダンに瑞々しく継承したノイズ・ポップとしてのシューゲイザーの最新形。全編通してノイズと共に疾走するサウンドはその周辺の音楽として完璧で、特に「Pastel」が筆者の趣味に嵌った。
サウンドの傾向として、例えばガレージ・ロックとシューゲイザーを折衷するTearsの様なバンドと併置して語れる感覚があるが、これはオーストラリアのシーンのムードなのだろうか。筆者にとってとても好ましいものである。
15.Sonhos tomam conta / wired
ブラジル・サンパウロを拠点に活動する宅録ブラックゲイズ・プロジェクトによる1stアルバム。
二進数のエーテルの中をメンタルヘルスの痛みや身体性から乖離した浮遊感を伴って疾走する様なポスト・インターネットの世界に顕れるべくして顕れた、または世界に終生馴染めない筆者の様な人種の為のサウンド・トラックとして完璧に美しいブラックゲイズ。Sleep like a pillowでもディスクレビューを書いたが、この作家についてはコラム等長めの論考を書いて整理したい。また、叶う事があればライブを観てみたい。
14.Butohes / Lost In Watercycle
日本・東京を拠点に活動するロック・バンドによる1stEP。
リファレンスが多様であるがそれを直截的に感じさせない、自発性や自分達の創造に拘る姿勢はDownyの創作への態度の継承と見て間違いないのだろうか。そこから生まれる音楽に魅了された聴者は僕だけでは無いらしく、SNS上で話題を集める姿が観測された。
澄み切った音像を聴くとポスト・ロック、例えば「W/N/W/D」のギターとヴォーカルの展開を聴くとある種のドリーム・ポップ、と言いたくなるが明らかに特定のジャンルに収まる音楽では無く、新しい音楽としか僕には言い表せない。
今後の作品が本当に楽しみで、機会があればライブで彼らの演奏を聴いてみたい。
13.Beauty of Sirin / Крылья духа растут в тишине
ロシア・サンクトペテルブルグを拠点に活動するブラックゲイズ・バンドによる2ndアルバム。
密教的かつダークな、AlcestやDeafheaven等の源流から見ると異形の進化を遂げた高水準なブラックゲイズ。ある種の宗教性と言うのか、旋律やサウンドに何処か崇高さが感じられ個人的に好ましいバンド。
厭世とオカルティックな探求以降の成立としてある審美的サウンドはこの周辺のリスナーは是非聴くべきだと思うし、後述するがサンクトペテルブルグシーンの層の厚さを思い知らされる。
12.MOXPA / Огнём природа обновляется всецело
ロシア・サンクトペテルブルグを拠点に活動するブラックゲイズ・バンドによる1stアルバム。
今年のブラックゲイズ周辺のリリースでも特に気に入っているアルバムと前置きしておきたい。影響源を辿ると、当然ではあるがシューゲイザーとブラックメタルがあり、それに加えて彼らの特色としてポスト・パンク、特にデスロックと呼ばれる一派の影響を聴き取れる。例えばChristian Deathがそうだ。
思想的な側面を分析するとオカルティズムの色合いが濃いのだろう。内省的な音楽性で、グノーシス期のPopol Vuhやリチュアル・インダストリアルのAin Soph、リチュアル・ダークアンビエントの一派辺りが隣接する作家だろうか。
とは言っても邪悪で呪詛の籠った作風というより、ある種の清々しさを感じる強い思弁性を抱えた音楽である。追記すると、ロシア・サンクトペテルブルグには規模の大きいブラックゲイズの人脈、言い換えるならシーンが存在するらしく、その周辺から台頭するバンドは全て珠玉である。ブラックゲイズの全てのリスナーに聴いて欲しいアルバム。
11.Misertus / Punctual
イギリス・マンチェスターを拠点に活動するブラックゲイズ・バンドによる5thアルバム。
何だかんだで初期から彼らの活動を追い続けていて、前作『Earth Light』で見せた光輝く叙景、開けた幻視の光景に驚かされたがどうやらまだ早かったらしく今作でまた衝撃を受ける事になった。
Deafheaven以降の正当進化と言うべき激情ハードコアの要素が強い轟音は闇に沈み込みがちなジャンル周辺のバンドの方向とは趣を異にしており、強い光の様な審美性を強く表している。
ブラストビートがここまで清々しく響くバンドも稀だろう。今後の活動が楽しみで、願わくば来日公演に期待したい。
10.溶けない名前 / タイムマシンが壊れる前に
日本を拠点に活動するシューゲイザー・バンドによる3rdアルバム。1stアルバムの再録盤でもある。
『制服甘露倶楽部』がとにかく好きで、何度も何度もそれこそitunesの再生回数が三桁後半を超える程聴き返したバンドのアルバムが1stアルバムの再録という事で驚き、作品を聴いて更に驚いた。元々1stの楽曲の良さは認識していたが、2nd以降のソリッドな轟音によって演奏される事で2ndと遜色無い強度が表現されていたからだ。
今後の作品も本当に楽しみで、個人的に得難いバンドのこの作品を大切に聴いていきたい。
9.The Florist / IN CVLT
東京を拠点に活動するシューゲイザー・バンドによる3rdアルバム。
耽美で幻想的なシューゲイザーサウンドを志向するバンドは今作でヘヴィー・シューゲイザーと隣接する作風に舵を切っており、それは個人的に好ましい変化だった。
審美的な旋律とサウンドは以前と変わらず、重厚さを増したサウンドが個人的な趣向に嵌り何度も聴き返していた、というか今後も聴き続けるだろう。
一度で良いからライブを見てみたい、というか大阪に来て下さい。
8.CURSETHEKNIFE / Thank You For Being Here
アメリカ・シカゴを拠点に活動するヘヴィー・シューゲイザー・バンドによる1stアルバム。
明らかにNirvanaへのシューゲイザー流の愛の表明である「Feeling Real」から始まる今作は今年のヘヴィーシューゲイザーの中でも目立つ出来だった。Nothingの影響下にある事も明らかだろう。「Too Solid Too Flesh」でのダウナーな安息は彼らから継承した感覚として見て間違いない。
個人的に注目したいのは、「In Dreams」でMy Bloody Valentine「Soon」へのヘヴィー・シューゲイザー流のオマージュを試みている事だ。「Soon」のビートをハウス由来のものとして解釈した上でアップビートに展開するこの楽曲が個人的なアルバムのピークで、サビの開放感と美しさに強く感嘆したのは記憶に新しい。
7.For Tracy Hyde / Ethernity
東京を拠点に活動するシューゲイザー・バンドによる4thアルバム。
アルバムの制作の度に進化と挑戦を続けるバンドの今作は、グランジやスロウコアを参照したヘヴィー・シューゲイザーとして成立している。
前作からポップなソングライティングを引き継いだ、もしくは進化の過程にあると見るべき「Just Like A Firefly」、リリックが透徹しており美しい「Interdependence Day Part 1」、Nirvana「Heart Shaped Box」のシューゲイザーによる巧みな変奏「Chewing Gum USA」、個人的にアルバムのピークと捉えている「へブンリィ」など珠玉の楽曲が並ぶ。
聴いていてここまでストレスや居心地の悪さを感じない、心地良いアルバムが他に何枚あるのだろうか?今後も繰り返し聴いていきたい。
6.Submotile / Sonic Day Codas
ダブリンを拠点に活動するエモ・シューゲイザーバンドによる2ndアルバム。
ドラマティックな楽曲展開やエモを経由した清々しい轟音は健在で、前作から美しく進化した印象を受ける。ドライブ感と言うのか、音楽を前に駆動させる力が途轍もなく強く、聴取時の体感する時間がとても短かった。
今作以降も安定して名盤をリリースする(と勝手ながら期待している)このバンドの活動を今後も追い続けたい。願わくば来日を。
5.Deafheaven / Infinite Granite
サンフランシスコを拠点に活動するブラックゲイズ・バンドによる5thアルバム。
シューゲイザーとブラックメタル、そして激情ハードコアとの折衷、つまり黒々しい幻想に満ちた轟音を全面に押し出していた彼らが音楽性を変貌させた衝撃は僕にとってもそれなりに大きく、またそれは好ましいもので今年一年を通して何度もこの作品を聴き返す事になった。既存の方向性が近い作家を挙げるならドイツのTrautonistだろうか。この作品がお好きな方は是非ご一聴頂きたい。
デスヴォイスと轟音に支えられていた叙情が旋律と和声に置き換わった事で彼らの音楽が損なわれる筈は無く、凡百のシューゲイザー/ドリーム・ポップの作家では達成出来ない地平をまた展望する事になった。今作以降、彼らがまた轟音に回帰するのかクリーンな方向性を極めるのかという点は個人的な関心でもある。
deafheavens.bandcamp.com4.Stomp Talk Modstone / Linger in Someone's Memory With a Lurid Glow
国産シューゲイザー・バンドによる待望の1stアルバム。
先ず全編を通して聴いて気付くのは、意識的なものか無意識的なものか判断しかねるが、バンドが90年代のオリジナルシューゲイザーからニューゲイザーを経て現在のシューゲイザーに至るまでの歴史を俯瞰しており、その再解釈と吸収が行われた結果の作品である事だ。My Bloody Valentine、Slowdive、Chapterhouse等は言うまでもなく、例えば「Wander」には近年のDIIVとの隣接を感じるし、重複するが「You Should Know」はMBV「To Here Know When」への美しいオマージュである。
再解釈と表現という音楽上の営為は対象への批評を内包する事になる。彼らの音楽は、シューゲイザーの三十年の歴史への総体的な批評であり、その美しい結晶なのだ。
3.Kraus / View No Country
待望の、という言葉では言い足りない程待ち望んでいたソロ・シューゲイザー・プロジェクト、Krausによる3rdアルバム。
1st、2ndと徹底的な轟音とシューゲイザー特有の対岸を臨む様な幻想性を打ち出した音楽を展開してきた作家だが、今作の洗練の極みの様なサウンドで新たな地平に達したというか、個人的なシューゲイザー体験を塗り替えたと言っても言い過ぎでは無い完成度の作品が提出された事が喜ばしい。
「From You」がアルバムのエモーションの極点を記録している、と思う。全編通して美しい珠玉のシューゲイザー。
2.파란노을 (Parannoul) / To See the Next Part of the Dream
韓国を拠点とするソロ・シューゲイザー・プロジェクトによる2ndアルバム。
偶々BandcampにてShoegaze+Koreaで検索を掛けた所、リリースから三日後のこのアルバムがヒットした事が今思うと幸運で、2021年の中での大きな事件となった。
音楽的には恐らく思春期に通過したであろうSDREやマスロック、言うまでもなくシューゲイザー、その他のエモやハードコア・パンク等の影響が伺えるが、彼の音楽を他との比較を拒絶する優れた水準にしているのはその叙情だろう。
決して光が常に差し込んでいる訳ではない青春の、その断片が美しく燃え、濾過され、透過し、結晶化した叙情が全編に渡って力強く展開される音楽が広く支持を集める事は必然だと思う。例えば前衛短歌のある提言の様に、新しい芸術には新しい叙情が必須のもので、新しい叙情を獲得している事がその芸術の新鮮さをある部分で保証するからだ。
彼が僕のインタビューを受けてくれたのは僥倖だった。今後もこの名盤を聴き続けたい。
1.Sadness / April Sunset
アメリカを拠点として活動するソロ・ブラックゲイズ・プロジェクト。
多作かつ飛び抜けた水準のブラックゲイズを創る作家による、今年のジャンル周辺でも明らかに異色の出来の作品。エレクトロニカ的なイントロから轟音へ移行し、クリシェから逸脱した、譜割りが困難だと思われる不定形の音楽が展開する「Bigbury April Twilight」から美しく叙情する「Collar」まで全編を貫く異次元のアンビエンスとグロテスクな要素を一切欠いたデスヴォイスに打たれる。
今年はブラックゲイズもシューゲイザーも豊作で、素晴らしい作品が散見されたがこの一枚の完成度は明らかに白眉の出来だった。