Music for Orphans

音盤収集記。

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Levi Patel / Affinity

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透徹したトーンと暖かな楽曲を併せ持ったネオクラシカル的なポストロック。
ストリングスとベル、シンセサイザーと讃美歌の様なコーラスの採用と抒情的なギターの旋律が美しい。非ロック的な楽器というか、ストリングスが採用されたポストロックと言うとGY!BEが思い浮かぶが、ベクトルが真逆な今作の様な方法も在るのだと気付かされた。タイトルのポエジーと楽曲の淡さの印象に過ぎないが文学ひいては詩の影響が強いアーティストに映る。情動も感傷も美しい抽象に昇華する淡く耽美な一枚。

Affinity

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Christoph Heemann & Andreas Martin – Lebenserinnerungen Eines Lepidopterologen

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何度聴いたか分からない、クリシュトフ・ヒーマンとアンドレアス・マーティンが創り上げたシュールレアリスティックで幻想的な名盤。Die Sagenhaften Huhnerでのアンドレアス・マーティンの美しいガットギターとヒーマンの透徹、幽玄かつシュールレアリスティックな電子音が絡む様が今作の最も美しい瞬間かと思う。内ジャケットの青を基調とした落下する女性とビルのコラージュが美しい。

高橋睦郎 / 待たな終末

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「いつかヒト滅び世界も滅ぶればわが言葉いまを輝き滅べ」

「幼な子に世界は言葉 言葉なる世界のめぐり動くもろもろ」

「言葉なる世界と世界なる言葉その鬩ぎにし訪ひこしか詩は」

「沈黙より言葉生まるる草や木の木の影より光現るるさながら」

「七十億滅びこの星滅びなばそを記憶せむぬばたまの闇」

「黙示録その騎士四人わが裡の四方にこそ吹け滅びの喇叭」

「極小の神分裂し増殖しわれら逃げ惑う七十億のわれら」

「眞夜を讀む人眠らせぬ一語だにわが詩にあらば眠らむを永遠に」

「旅を行く星を産み呑みぬばたまの闇の洞こそ旅行け永遠に」

「十字架の根やいづちより土深く眠るアダムがされかうべより」

「終末をむしろ嘉せむ吾と汝の差別の因も果も消失すれば」

「夜の終り呼ばはる聲す二千年前ユダヤの荒野より」

「終末はそも何処より無の子なるわれらが裡の深き淵より」

「審判の日に立ちあがるあやつりの糸の繋げし骨のつらなり」

「世の終り未だしとせば世の人のひとりひとりの終りいかにぞ」

「風かよふ水垂り洞に葬りたる屍腐るは疾く骨となる」

「肉-骨に 骨-水に 水-風に 無に ただに明るし 後生の時間」

 

アンドレイ・タルコフスキー / ノスタルジア

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緑と青、モノトーンが印象的な映像美と宗教的で暗鬱なストーリー。ノスタルジーを象徴する静止画と壮麗な廃墟が美しい。膝まで浸す水が印象的な少女に弁を振るうシーンの破れかぶれな感情。昔の知人の意見だが、自殺のシーンでドミニクが流す第九と演説と自殺の関係が興味深い。第九のテーマである天上の世界を目指す為の同胞への呼びかけ、同胞愛とドミニクの世界救済のための同胞への呼び掛けを同期させているとの事。音楽をBGMとして消費せずにテーマ性と作品を同期させるという監督の哲学があるらしい。主人公が強く捕らわれているノスタルジーは監督のノスタルジーの投影なのか?冒頭と終劇のロシア民謡はOI VI KUMSCIKIと言うらしい。劇中の犬はストーカーの犬と同じ犬なんだろうか。蛇足というか下らない話だが、1+1=1と言う妄執を表す数式を見てRadioheadの2+2=5を思い出した。元ネタだったりするのだろうか。

Mark Fry / Dreaming With Alice

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アシッドフォークファンには言わずと知れたMark Fryの1stであり傑作。どこまでも優しい幻想的アシッドフォーク。ジャケットに映っている少女に子守唄の様に繰り返し聴かせるために、Dreaming With Aliceを繰り返し録音したというエピソードがあるらしい。再発CDのボーナストラックとして収録されているDoesn't Matter To Me If It Rainsが白眉かと思う。雨に纏わる歌は大体名曲という個人的な偏見があるが、この曲も例外では無いというか。

Dreaming with Alice

Dreaming with Alice

  • Mark Fry
  • シンガーソングライター
  • ¥1528

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鷲巣繁男 / 鷲巣繁男詩集

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「やがて果樹園を吹き抜けた夜が、伽藍の空洞に化石になるのを待つてゐる天使らを包むとき、蜥蜴の夢だけが、この世の連帯の虹色をステンドグラスに燃やすだらう。」(死者たちへの手帖)

「遠くで角笛がする。羊たちが目覚めるころだ。そして、わたしは凡ての罪を秤る。」

「わたしには終りはない。あのひとは完璧となるだらう。」(ユダ・イスカリオテの祈り)

「わたしの眠りに海は遠く、夜はすべての襞を浸す。年老いた石たちの記憶、神の亀裂。人間の橾宴を象りつつ、やがて永遠の沈黙の中で、それらは沙漠へ流れ去るであらう。果しない苦悩を、純粋の神をも、運び去るであらう。」

「張りつめられたわたしの星座は、広大な宇宙の中で雄々しく緊張に堪へながら、なお、失墜するサタンの予感にふるへている。」(ネストリウスの夜)

「ぼくらが寄り添ふとき、ぼくの罪はきみに伝はる。きみの悪はぼくの皮膚を浸す。だが、ぼくの苦悩はぼくの中をただ循環し、ぼくの声、ぼくの言葉は外皮の上で、戯れ唱ふのみだ。」(戦士・眩暈者・昏睡者ダニールのためのシャンソン)

塚本邦雄 / 塚本邦雄全集一巻

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「くりかえし翔べぬ天使に讀みきかす 白葡萄醒酸製法秘傅」

「湖の夜明け、ピアノに水死者のゆびほぐれおちならすレクイエム」

「てのひらの傷いたみつつ裏切りの季節にひらく十字科の花」

「夜のつぎにくるはまた夜、かなしげな魚の眼の中に燈ともせ」

「翅あはすやうに両掌をあはせつつ君かへる日を花にいのりし」

春天に白き飛機あり。牝鶏のやうに穢れてゐるイブの末裔」(水葬物語)

 

「堕天國のさま夕ひばりましぐらに靑年うしなはれゆくばかり」

「わが愛のかたへの立ちて馬の目のこほる紫水晶體よ」

「孔雀の屍はこび去られし檻の秋のここに流さざりしわが血あり」

「ほほゑみに肖てはるかなれ霜月の火事のなかなるピアノ一臺」

「メニエル症候群靉靆と木犀のにほふ くるはざる死へのあゆみ」

「とどこほる血の紅梅のつぼみ満つ おくるるはわがこころの死」

「わかものはよひの白雨に立ち沐浴む時間の果てのその靑裸」

「秋昏るる静脈のあゐ 詩を視るは火を睹るよりもおぼろなるかな」

「おとうとの殺意さへぎる恩寵と曇天の薄き膜をたまふ」(感幻樂)

 

「棕櫚の縄曳き電柱を攀づるもの、青年科・無翼堕天使類」

「わかものの病む眼のなかのひるの星****Laclos,L'Isle-Adam,Lonys,Lawrence」

「薔薇たとへば死後の時間のすみやかに經つゲルマンの直系の藍」

「合鏡の世界に髭剃ればわれとワーグナーの逢ひかず知れず」

「愛の創めに呪はるる者花菖蒲 禁食の胎 水に漂ひ」

「わかものよ汝の脚よりややながき姦淫の神話こよひ語らむ」

「あやまちてめとりし天使かたはらに髭もて織れる紫の網」

「神空に治しめさざる野の夜をグラジオラスが類ひなき花序」

「犯されし記憶の花麒麟ひらき棘生ふるライプツィヒの少女」

「汝の眼底にわれ死すパルジファル蒼き花冠のごと擁かしめ」(緑色研究)