シューゲイザーについての私的雑感とレビュー
この記事ではシューゲイザーについての個人的な雑感とレビューを綴っていきたいと思います。単なる一シューゲイザーリスナーの見解に過ぎないですし、歴史を体系的に纏める為の記事でも無いので抜けや不備、間違いが多々あると思われます。悪しからず。
・初期シューゲイザー、黎明期。
ルーツについては諸説ありますが、リリース時期を考えるとMy Bloody ValentineのEcstacyが初めてリリースされたシューゲイザーの音源という事で間違いないと思います。そう考えるとMy Bloody Valentineが起源という説が個人的には正しい様に思えます。それ以前のルーツを考えると、RamonesやBuzzcocksのパンクなエネルギーとポップセンスやHeavenlyとAnother Sunny Dayに代表されるSarah Records一派のサウンド、Brian Eno辺りのアンビエントが挙げられると思います。特にSarah Records一派の影響は前述したEcstacyに顕著ですね。EP'sに収録されている作品以降は明確にアンビエントを意識している様に思います。
・My Bloody Valentine
極彩色のディストーテッドされた轟音ギターと強烈なアンビエンス、甘美で耽美な楽曲群のポップネスと一種の宗教的至高性。歌詞がファジーなのは楽音に意識を向けさせる為なのだと思われます。Lovelessはシューゲイザー史上の不動の金字塔であり、今なお輝き続ける名盤だと個人的には思います。影響元として挙げられるのはRamonesとSarah Recordsから作品をリリースするHeavenlyでしょうか。アコースティックギターの優しさを見るとHeavenlyの優しく穏やかな楽音の影響を受けているのが伺えます。
・Loveless
・EP's 1988-1991
タイトル通りEPを集めた編集盤なのですが、My Bloody ValentineはEP事に楽曲のテイストを全く変えており、結果的に多様性に満ちた音源になっています。Cigarette in Your Bedで見せる強烈なエロスの表現はシーン全体を見渡しても類を見ないと思います。このアルバムを聴いていていつも思うのですが、ディストーテッドされたギターに注目が集まるケヴィン・シールズですがアコースティックギターの演奏も完璧だなと。Don't Ask Whyでのアンビエンス溢れるギターの演奏が忘れがたいです。
・Chapter House
イギリス・レディングで結成された伝説的シューゲイザーバンド。清涼感とエネルギーに満ちた演奏とUK感溢れる楽曲が僕が言うまでも無く素晴らしいです。現在のUKロックに与えた影響は計り知れないと思います。当時は酷評されたらしいですが、Blood Musicでの打ち込みの採用も今聴くと格好良いですね。ビートが比較的フィジカルで踊れるとの評判らしいです。完全な余談ですが、別のウェブ記事でも言及されているのですが彼らは当時のレディングフェスを観て育ったのでしょうか。羨ましいです。
・Ride
イギリス・オックスフォードにて1988年に結成されたシューゲイザーファンなら誰もが知る名バンド。透徹した浮遊感溢れるサウンドと完成された楽曲が素晴らしいです。2nd以降はシューゲイザーと言うよりはインディーロックな作風で近作もシューゲイザーでは無いですが、現在のライヴは紛う事無き完璧なシューゲイザーでした。
・Slowdive
漂白された耽美性溢れる轟音とシンプルながらリリシズム溢れる歌詞、強烈なアンビエンスと美しいツインヴォーカルが特徴的な初期シューゲイザーを代表するバンドですね。個人的に90年代からずっと愛聴していて思い入れが深いです。
・Blue Day
EPとシングルを纏めた編集盤。このアルバムがSlowdiveのパブリックイメージに近い音楽性に近づいた時期というか、転換期に当たるのだと思います。個人的にはShe CallとLosing Today辺りが白眉だと思います。内省と漂白された轟音、特有のリリシズムと純白の光景。
・Pygmalion
アルバム屈指の名曲であるCrazy For Youが個人的な彼らのベストソングです。他者への愛を反復するだけの歌詞がここまで美しく響くのは楽音の成せる業でしょうか。ミニマリズムとノイズが削ぎ落とされたギター、甘美な歌唱と他者への愛の反復。
・Pale Saints
1987年結成、UK発のシューゲイザーバンドでありオリジネーターの一組。耽美な楽曲群と楽音が素晴らしいです。昔から良いバンドだとは思っていたのですが、2020年のリマスターでその真価が発揮された印象があります。高音質化によってバンドが抱える耽美性が一層際立ったので。4ADを象徴するバンドの一組でもあると思います。
・A.R. Kane
あまり有名では無いですが、オリジナルシューゲイザー世代の一組でベースミュージックとシューゲイザーのマッシュアップの先駆です。ジャングルやハウスとのマッシュアップ路線も良いですが、個人的にはダークなテーマを推し出す初期EPであるLollitaが好きで折を見て聴き返しています。余談ですが、メンバーに黒人を有しているバンドは彼ら以外思い当たらないです。近年の復活が目出度いですね。
・1990年代、第二世代のシューゲイザー
この時期がシューゲイザーの第二世代、MBVやSlowdive以降のバンドと言う事になるのだと思います。シューゲイザーの本質的な意味での多様化が始まった時期だと個人的に認識しています。付け加えるとコクトーツインズやAlison's Haloの登場を顧みてもこの時期にドリームポップへの種が蒔かれた様に思います。
・Alison's Halo
1992年結成、アリゾナ産シューゲイザーバンド。浮遊感溢れる耽美な轟音と何処までも甘いヴォーカルが印象深いです。憶測ですが、インディーポップ路線のシューゲイザーの先駆けなのだと思いますし、ドリーム・ポップの一つのルーツなのだと思います。
・All Natural Lemon and Lime Flavors
Steleolabの影響が顕著な1990年代後半に活躍したシューゲイザーバンド。強烈なサイケデリアを伴ったMBV的な轟音の海に飲み込まれます。個人的には1stアルバムが好きです。
・The Autocollants
1996年に結成されたインディーポップ的なサウンドと楽曲が美しいTears Run Ringsの前身となったバンド。このバンドもインディーポップ路線の先駆けかと思います。シューゲイザーには珍しいトランペットの採用が印象的です。
・Colfax Abbey
エモーショナルで何処か冷たいサウンドと音楽的なセンスの高さや意匠を感じるスケールの大きい楽曲群が素晴らしいです。ジャンルは違いますが、Sunny Day Real EstateのRising Tideの冷たさに通じる様に思います。共通しているのはキリスト教信仰の冷たさでしょうか。
99youtu.be
・Curve
ロンドン発、大胆な当時のベースミュージック的要素の採用が鮮烈で印象的な1990年代に人気を博したシューゲイザーバンド。Already Yoursは今なお古びない名曲だと思います。ギタリストは今もSPC ECOで自身の娘と共に活動しています。
・Drop Nineteens
ボストン発、1991年デビューのシューゲイザーバンド。当時はUSのバンドは珍しかったらしいです。繊細でノイジーなギターが美しいです。Madonnaの「Angel」のカヴァーが何処までも美しく、この曲ばかり聴いてしまいます。あの楽曲がここまで抒情的で耽美に変貌する所にシューゲイザーの素晴らしさを感じますね。
・half string
1996年に a fascination with heightsでデビューしたアメリカが誇る名バンド。2012年にCaptured Tracksから編集盤がリリースされてまた脚光を浴びましたね。その編集盤も良いのですが、前述した a fascination with heightsが珠玉の名盤で90年代という時代を考えると異色の出来だと思います。現在は入手困難なのが残念です。
・Lilys
MBV直系のドリーミーな轟音とウィスパーなヴォーカルが最高に気持ち良い良質なシューゲイザー。インディーロック路線のセルフタイトルのアルバムも良質ですが、ここではシューゲイザー路線のIn the Presence of Nothingを取り上げようと思います。Tone Bender後半のリズムチェンジの高揚感が素晴らしいと思います。
・Masters of the Hemisphere
US産、1996年結成のシューゲイザーバンド。インディーロック路線の甘美な楽曲が素晴らしいです。アコースティックな音源も良いですね。憶測に過ぎないですが、活動時期を考えるとMasters of the HemisphereとLilysがインディーロック路線のシューゲイザーの先駆けなのではないかと思ってます。
・Secret Shine
1993年デビュー、ブリストル発のシューゲイザーバンド。エセリアルで極彩色の甘美な楽音とポップを称える楽曲群が印象深いです。個人的には1stアルバムであり名盤であるUntouchedのリリース元がSarah Recordsだというのも好感度が高いです。
・Swervedriver
UK発、1991年にRaiseでデビューしたシューゲイザーバンド。初期はオルタナティヴロック的な作風でしたが、近年の復活作に収録されているDrone LoverでMy Bloody Valentine的な展開を見せていて元々高かった個人的な評価が更に上がりました。名曲だと思います。
・2000年代以降の新しいシューゲイザー
ハードコアパンクやポストロック、ブラックメタルとのマッシュアップ、インディーロックやインディーポップへの傾倒やドリームポップの誕生などが起こり、個人的にはシューゲイザーの多様性が本質的な意味で開花した時代だと思います。後述するバンドがそれを象徴している様に思います。ただ、現在のシーン全体を俯瞰するのは個人では難しくそれを目的とした記事では無いという事もありますのでここでは○○フォロワー的なコンフォーミズムを感じさせない個人的に気に入っているバンドに限定して列挙していこうと思います。
・Airiel
ほぼノンリヴァーヴの乾いた切れ味の良い轟音とシューゲイザーの王道を行く歌が美しい、シカゴ発シューゲイザーバンド。2001年デビューです。Think Tankの疾走感やSugar Crystalの甘さはシーン全体を見渡しても類を見ないと思いますし、The Battle of Sealandは不動の名盤だと個人的には思います。メランコリーが欠落しているのもポイントかなと。
・Asobi Seksu
言わずと知れたニューヨーク出身で人気の高いシューゲイザーバンドです。ポップに振り切った楽曲とパンクなエネルギーを感じるイノセンス溢れるサウンドが好感度高めです。日本語詞の採用も興味深いですし、ライブ盤で見せたエネルギーも素晴らしいと思います。ここではセルフタイトルの1stアルバムを取り上げておきます。
・Auburn Lull
何処までも耽美なアンビエント・シューゲイザー。ディレイとリヴァーヴの洪水に漂う様なアンビエンス溢れるサウンドとキリスト教信仰と安息を感じさせる楽曲群が素晴らしいです。厳密に言うと1999年デビューですが、主な活動時期が2000年代の為この章で言及しました。下記のAlone I Admireも不動の名盤ですが、編集盤であるRegions Less Parallel: Early Works & Rarities 1996-2004も優れた楽曲ばかりの名盤です。祝祭と安息、アンビエンスとキリスト教的なポエジー。
・Butterfly Explosion
2005年から活動するアイルランド産耽美派シューゲイザー。Lost Trails収録のCloserが屈指の名曲だと思うのですが、作中のビートの展開が変わる所でいつも感動してしまいます。耽美と轟音の海に垣間見える美しく開けた光景。
・Closed Mouth
2019年にCold Transmission Musicからデビューしたという事以外、ネット上に情報が無い謎めいたユニットです。彼らが志向しているのはダークウェーヴとシューゲイザーの折衷ですが、ブラックゲイズやBitter Flowers辺りのバンドと比較するとよりダークウェーヴに寄った黒々しい轟音になっています。ダークウェーヴの先鋭性とシューゲイザーの甘美さの折衷、結果として生まれた黒々しい轟音。
・Con Dolore
1998年にレコーディング・プロジェクトとして始動したシューゲイザーバンド。夢の中を漂う様な危うげで美しいサウンドと楽曲が素晴らしいです。1stアルバムであるThis Sad Movieが名盤で、中でも「She Said Goodbye」と「Dream」が際立っている様に思います。Claire Recordsの初期リリースの中でも一際冴えた印象を受けます。
・Dead Horse One
淡いメランコリーとダークさが心地良いフランス発シューゲイザー。前述した通りメランコリックでダークな音楽性が美しく、Rideのマイク・ガードナーに評価されたのも頷ける様に思います。因みに下記のアルバムのプロデューサーはそのマイク・ガードナーで、彼らはRideのツアーにも帯同しています。メランコリーと淡い闇、卓越したソングライティングと90年代シューゲイザーへの愛情。
・Deerhunter
2001年結成、ジョージア発シューゲイザー / ドリームポップバンド。某所でのインタビュー記事曰く、現実逃避としてのシューゲイザー / ドリームポップに対する否定的な意思があるらしく、その為かどこか特有のリアリズムを感じる様に思います。歌詞でも重いテーマを扱っていますね。初期の捻じれたサイケデリックロック路線も最高ですし、Halcyon Digest以降のドリームポップ路線も素晴らしいです。エクスペリメンタル・ミュージックで有名なKranky Recordsからリリースしているのも興味深いです。有名な話ですがバンド名の由来は映画のDeerhunterだそうです。
・The Depreciation Guild
Pains Being Pure at HeartのKurt Feldman率いる現行エレクトロ・シューゲイザーバンド。美しいスタイルでのシンセサイザーの採用や抒情的な楽曲、インディーロックに振り切ったポップなサウンドが素晴らしいです。Ice Choirを初めて聴いた時にも感じましたが、Kurt Feldmanのポップセンスは常人離れしてますね。最高です。
・Deserta
Saxon Shoreのギタリストが結成した、シューゲイザーとポストロックのマッシュアップを目論む現行のバンドです。特徴的なのは通底するダークで沈鬱な世界観とポストロックの影響が強烈なギター、印象的なシンセサイザーの採用でしょうか。My Bloody Valentine以降のバンドという感があります。沈鬱と暗黒、通底する静寂。
・DIIV
初期はインディー・ポップ寄りのシューゲイザーを展開していましたが、最新作であるDeceiver以降新たな展開を見せ、オルタナティヴロック路線に見事に転身しました。個人的にはどちらも好きですが、転身以降を推す声が僕の周囲では多かったです。
・Downward
2015年結成に結成された現行シューゲイザーの一角です。Nothingと共振する様なハードコアパンクとシューゲイザーの折衷に成功したバンドの一つですね。ただ音楽性はよりダウナーでメランコリーに溢れ、一種のディストピアを描き出している様に思えます。インタビュー記事によると、メンバー全員がRadioheadとDeath Cab For Cutieのファンらしいです。ハードコアパンクのバンドとの対バンが多いとか。ディストピアの表出とハードコアパンクスの精神性、抒情性とメランコリー。
・Exlovers
ロンドン発インディーポップ / シューゲイザーバンド。ギターポップ性とシューゲイザー性が美しく調和していて個人的に愛聴してます。珠玉の名曲である「Starlight,Starlight」の一曲だけでもシューゲイザー史に残る名バンドだと思います。イントロで採用されたリフが楽曲中盤からヴォーカルの対位として機能し始める展開を聴いて感銘を受けました。
・flirting.
2016年にデビューした新鋭シューゲイザー。インディーロックの影響がかなり強いです。シングルトラックのPeppermintを聴くと初期のThe Cannanesを強襲し、その路線を推し進めている様に思えます。純化されたインディーロック性と初期The Cannanesへの愛情。
・Flyying Colours
2013年デビュー、オーストラリア・メルボルン発のネオ・シューゲイザー。ポップでインディー・ロック的な楽曲と王道を行くサウンドが好感度高いです。2010年代以降のスタンダードな趣を感じさせます。
・Forsaken Autumn
中国発現行シューゲイザー。中国ではオーガナイザーとしても著名らしいです。幻想郷に引き籠る様な内省的な作風と美しい歌が印象深いです。眠りの中に沈み込む様なWallowが白眉かと個人的には思います。彼らが抱える幻想郷 / ユートピアは中国のディストピア的社会に対する一種の闘争 / プロテストなのでしょうか。幻想郷への逃走 / 闘争、審美と眠り。
・Gingerlys
アメリカ / ブルックリン発シューゲイザー / インディーロックバンド。清涼感とポップセンスに溢れたドリーミーで完璧な楽曲とエセリアルにも聴こえる旋律、完璧な演奏が魅力的で会う人全員にお薦めしてます。
・A Grave With No Name
2009年にデビューしたベッドルーム・シューゲイザーユニット。ストーナーメタルの様な重く引きずる轟音にサイケデリックで甘美な歌が乗るスタイルが特徴的です。甘いサイケデリアと沈鬱な轟音の美しい対比。
・GRMLN
カリフォルニア発Yoodoo Parkによるソロ・プロジェクト。兎に角多作な作家で、リリースを全て追った訳では無いのですが、僕が聴いた範囲だとIs It Really That Strange?が名盤の様に思えました。求心力を持った歌とベッドルームの夢。
・Guitar
ベースミュージックとマッシュアップされたビート、エレクトロなヴォーカル、デジタルな質感のギターが美しい2002年にデビューした現行シューゲイザー。最新作は2014年リリースで現在も活動を続けています。
・Helen
Grouperがギター / ヴォーカルで在籍する現行シューゲイザーバンド。乾いた質感の美しいサウンドと当然ですがGrouperと共通する歌心が素晴らしいです。バンド名の由来はギリシャ神話のヘレネーでしょうか。
・Hibou
2013年に結成されたシアトル出身シューゲイザー / ドリームポップバンド。インディーポップに傾倒しているのが見て取れる様な淡く繊細で毒の無いサウンドが美しいです。かなりの人気を博しており、2ndアルバムリリース時に各所で言及されていたのが印象深いです。
・Infinity Girl
My Bloody Valentineとインディーロックをマッシュアップしたかの様な轟音が美しい、ブルックリン発現行シューゲイザーバンド。Niche Musicで知って愛聴してます。
・JAGUWAR
MBVを現代のドリームポップ的なシューゲイザー観に沿って再解釈したようなドリーミーかつ色彩感覚に溢れる轟音が素晴らしい現行シューゲイザー。下記の楽曲がエモーショナルかつ耽美、エセリアルで高揚感に溢れていて最高です。
・Japanese Breakfast
Little Big Leagueのミシェル・ザウナーによるソロ・プロジェクト。ヘブンリーでポップ極まるサウンドとドリームポップ色もある美しい楽曲、それとは裏腹にへヴィーなリリックと作品に通底するポエジーが素晴らしいです。
・Jatun
オレゴン発先鋭的エレクトロ・シューゲイザー。M83や最近のPia Frausと比較すると作風がダークかつメランコリックでその辺が好感度高めです。エレクトロニカの影響が顕著でビートの感覚やシンセワークに表れている様に思います。仄暗いメランコリーと耽美的エレクトロニクス。
・Kero Kero Bonito
デジタルな現代アート的な世界観とヴォーカルのアイドル性が特徴的で、Nirvanaの様な静と動の緩急を付けたラウドな楽曲から甘美なドリームポップまで演奏する現行シューゲイザー。ただ彼女達がシューゲイザーのバンドとして活動したのは2ndアルバムのリリース直後から3rdアルバムのリリースまでで、3rd以降はシンセポップ化した様です。因みに1stはヒップホップでした。その振れ幅も個人的には面白いと思います。
・Kindling
マサチューセッツ出身、パンクな疾走感とエモーション溢れる素晴らしい楽曲群が印象深い現行シューゲイザーバンド。エモーショナルな旋律は王道を行くものですが、そこに留まらないインディーロック的なセンスを感じます。
・Kraus
ハードコアパンクのタフな精神性を真摯に受け継いだ激烈な轟音を具える独りシューゲイザー・ユニット。全ての楽器を独りで演奏しています。ハードコアパンク譲りの轟音はそうなのですが、不思議と楽音も楽曲も甘く、内省的なシューゲイザーとして成立しています。ハードコアパンクの精神性から来る強烈な轟音とスウィートネス、開けた光景と優れたポップセンス。
・La Casa Al Mare
宗教的なテイストが色濃いイタリア発シューゲイザーバンド。EPのみのリリースで活動を停止してしまったのが残念です。後述するSea Dwellerとメンバーを共有しています。
・Life On Venus
ロシア / モスクワ発シューゲイザー。彼らは二枚のアルバムをリリースしていて、下記の音源は2ndに当たります。ロシアからの安易な連想ではありますが、彼らの楽音はどこか冷たくその辺の影響かなと推測してしまいます。仄暗い闇とインディーロック的なポップセンス。
・Lunacy
Nicholas Alan Kulpによるソロプロジェクト。文明の崩壊と精神疾患がテーマらしいです。インダストリアルな病んだ質感と終末的な神話の感覚を持っている様に聴こえますが、その終末感は前述した文明の崩壊というテーマから来るのでしょう。個人的にはダークアンビエントのTerence Hannamに感覚が通じる様に思え、グノーシスの終末的な光の様な光明を覚えました。ディストピア性とシュールレアリズム、終末的神話とインダストリアル。
・Mew
闇を一切感じないホーリーで清涼感溢れるサウンドが美しいデンマーク発現行シューゲイザー。ラフで格好良いMew and the Glass Handed Kitesも良いですが、個人的にはより洗練されたFrengers: Not Quite Friends But Not Quite Strangersを愛聴してます。
・Miniatures
オーストラリア / メルボルン出身のシューゲイザーバンド。90年代シューゲイザーを極端な方向に推し進めた様な轟音とポップネスが特徴として挙げられると思います。正直彼らの楽曲の全てが優れているとは思わないのですが、Jessaminesに収録されているHoneyだけは別格で優れたシューゲイズ・ポップだと思います。
・Mumrunner
ごく最近デビューしたエモ・シューゲイザーバンド。エモとシューゲイザーの折衷に成功しており、爽やかで清涼感溢れる轟音を聴かせてくれます。楽曲の完成度も高く、Foeという曲を聴いてExloversのStarlight,Starlightを想起しました。そろそろリリースされるアルバムが楽しみです。
・Niights
2010年代後半を代表すると個人的に思っているシューゲイザーバンド。来日公演には行きそびれました。淡いゴスのセンスとギタリストがスレイヤーのファンである通り、へヴィーメタルの影響と極端にポップな楽曲、オルタナティヴ・ロックの影響が特色でしょうか。スマッシング・パンプキンズのファンらしく、Sylviaという楽曲でそれが伺えます。ゴシックな愛とメタル譲りの轟音、オルタナティヴな構築性とリリカルな女性ヴォーカル。
・No Joy
カナダ発、Jasamine White-GluzとLaura Lloydによるシューゲイザーバンド。Sonic BoomとのSplitが有名ですね。ルードな精神性と捻くれたポップセンス、虚無感と夢想性。
・Nothing
言わずと知れたハードコアパンクとシューゲイザーのマッシュアップのオリジネーター。ポストシューゲイザーを掲げています。宗教色が一番強いDownward Years to Comeの頃から作品のレベルが高く、最新作であるDance on the Blacktopまでぶれる事無く高品質な作品を創り続けています。Downward Years to Comeを聴いた感じだと彼らは有神論者の様ですね。「僕達は神を見つめない、神が僕達を見つめる」という一節を歌っていたので。ハードコアパンクの精神性とシューゲイズの折衷、轟音の中に垣間見える耽美性。
・OddZoo
2018年にBlood Musicからデビューした、個人的に好きなシューゲイザーベスト10に確実に入るバンド。ブラックゲイズともまた違うブラックメタルとシューゲイザーのマッシュアップであり、同時にダークウェーヴやベースミュージックの影響も受けています。マイブラ以上の多声の対位法を楽曲に用いているのですが、それはゴシック性を強調する為の様です。
・The Pains of Being Pure at Heart
言わずと知れたインディーロック系シューゲイザーの代表格。天才的なポップ・センスを見せる楽曲群とシューゲイザーには珍しい具体性のある歌詞が際立っている様に思います。
・Peel Dream Magazine
NY出身現行シューゲイザーバンド。初期はK Records的でどこか脱力した印象的なサウンドを展開していましたが、2020年リリースのAgitprop AlternaではMBV直系のドリーミーな轟音を打ち出していて素晴らしいです。
・Pia Fraus
エストニア発耽美派シューゲイザーバンド。アートスクールで結成されたというエピソードもある通りアート志向が強く、メロディーもコード進行も印象的なアートポップと言う感じで素晴らしいです。天才的なシンセワークも美しいです。M83に代表されるエレクトロ・シューゲイザーの先駆でもあります。来日公演も最高でした。
・Pinkshinyultrablast
徹頭徹尾凄まじい轟音で、尚且つ鮮烈にポップでヴィヴィッドなサウンドが素晴らしいロシア発現行ネオ・シューゲイザー。1stEPであるHappy Songs For Happy Zombiesが前述した作風に当たります。それ以降はドリームポップに転身したのですが、転身以降もタフな音響は変わらないままで好感度が高いです。個人的なこの年代のベストバンドの一組です。バンド名の由来はAstrobriteの曲のタイトルだと思われます。
・The Radio Dept.
ドリームポップとシューゲイザーをマッシュアップするスウェーデン発の人気デュオ。甘美なヴォーカルとサウンド、洒脱な楽曲が素晴らしいです。3rdアルバムであるClinging To a Schemeのリリース辺りで爆発的に話題になっていた記憶があります。ソフィア・コッポラのマリー・アントワネットのサウンドトラックに採用された事で一層人気が増したらしいですね。
・Ringo Deathstarr
2005年から活動を続けるアメリカ発シューゲイザーバンド。バンド名はRingo Star×Death Starという事らしいです。Ramonesの影響で生まれたパンキッシュな疾走感とストレートなポップセンス、名曲を安定して産み出す才覚が素晴らしいです。ライヴは徹頭徹尾轟音で凄まじく内容が良かったです。
・Rotary Ten
シェフィールド発現行シューゲイザーバンド。繊細で感傷的、かつ耽美なギターサウンドと晴れやかなヴォーカルが美しいです。The Smithsの強い影響を受けており、ギターとヴォーカルのフレージング、感傷と耽美性にそれが表れている様に思います。
・Rumskib
デンマーク発の耽美系シューゲイザーバンド。MBV直系の耽美な轟音とダンサンブルなビート、男女混成のアッパーなヴォーカルが最高です。コクトー・ツインズ的な趣も感じます。Morr Musicから作品をリリースしているエレクトロニカのアーティストであるManualが下記の作品のプロデューサーらしく、エレクトロニカの要素は彼が持ち込んだ様です。
・School '94
抒情的で美しい楽曲と透徹したあまりディストーテッドされていないサウンドが印象深い、スウェーデン・ヨーデボリ出身の良質なバンド。Westkustとレーベルメイトですね。個人的にはBoundというEPを推したいです。
・Sea Dweller
La Casa Al Mareとメンバーを共有するイタリア産シューゲイザー。写真右側の人物が中心となっているバンドで、La Casa Al Mareも彼が中心となって結成した様です。職人気質にも映るサウンドの感触と構築度が高くポップで美しい楽曲が素晴らしいので推していきたいです。サブスクリプションには登録していない様です。
・Slow Crush
グランジの影響とシューゲイザーの色彩が美しく調和するベルギー発現行シューゲイザー。1stアルバムであるAuroraが兎に角名盤で、色彩感覚溢れるサウンドとストレートでタフなビート、グランジの影響を隠さないギターとリリカルなヴォーカルが調和していて最高の出来と言う感じです。Nothingがお好きな方にもお薦めできると思います。
・Sobs
現在のシンガポール、大きく見ると東南アジアを代表するであろう現行シューゲイザーバンド。耽美かつポップで多幸感溢れるサウンドとそれと対比する様な失恋を扱ったリリックが印象的なTelltale Signが名曲で愛聴してます。ギターの美しいサウンドにSarah Recordsの影響を感じます。日本の公園で演奏されたアコースティック・セットも素晴らしかったです。
・Somber
ダークで抒情的なサウンドと沈鬱かつポップセンスを忘れない楽曲が素晴らしいオレゴン発現行シューゲイザー。ヴォーカルがSweeping ExitsのMyrrh Crowらしく、その経験が生かされているのかインディーロック色が強いです。ダークなシューゲイザーがお好きな方にお薦めしたいバンドです。
・Submotile
エモとAmusement Parks on Fireの影響が色濃く、強烈でパンクな衝動を抱えたシューゲイザー。透徹なギターワークとヴォーカルが美しく、個人的に愛聴しています。エモの衝動と透明な轟音、漂白されたヴォーカル。2019年の個人的なシューゲイザーベストに挙げました。MVBオマージュのPVも好印象です。
・Sunshower Orphans
ネットにアーティスト写真も情報も上がっていない謎のバンドです。Spotifyの某プレイリストで発掘しました。エモーショナルで感傷的、ノスタルジーを喚起する楽曲と楽音が特色として挙げられると思います。少年時代へのノスタルジーと感傷、乾いたメランコリー。
・Sway
2000年から活動を続けるカリフォルニア産エレクトロ・シューゲイザー。下記のアルバム以前は4人体制のバンドだったらしいですが、この音源からアンドリュー・サクスのソロプロジェクトになっています。某所でも言及されている通りWhat I Knowという楽曲でMy Bloody ValentineのWhat You Wantへオマージュを捧げていて、彼らの影響が強く憧憬を感じます。
・tears
ガレージパンクとシューゲイザーのマッシュアップが最高なオーストラリア発シューゲイザー。エモーショナルで美しい歌が甘く乾いたセンチメンタルな轟音に乗る展開です。個人的にかなり気に入っていて愛聴し続けています。兎に角格好良いです。下記の音源は2ndアルバムに当たります。
・Tearwave
個人的に気に入っている2015年から活動を続けるゴシックかつ極めて耽美なシューゲイザーバンド。1stアルバムはコクトー・ツインズの影響を強く感じさせる内容でしたが、2ndアルバムはゴシック・ロックの影響を前面に打ち出しており名盤となっております。Nothing's WrongとFalling From Graceが白眉でしょうか。恩寵の喪失とゴシックな審美性。
・Title Fight
ハードコアパンクからシューゲイザーへ転身した2003年結成のバンド。2015年リリースのHyperviewが転換期に当たり、このアルバムから内容がシューゲイザーとなっています。過剰なロマンティシズムと甘い憂鬱、ポップネス。
・WHIRR
Nothingのメンバーが在籍する、へヴィーでダウナーなハードコアパンクを経由したシューゲイザーバンド。Nothingと比較するとインディーロックに寄っていて、リリカルで耽美な女性ヴォーカルが採用されている事もありポピュラリティを得ている様です。個人的には2012年リリースのPipe Dreamが好きで愛聴してます。Nothingもそうですが、ポストブラックの代表格であるDeafheavenの元メンバーが在籍しているのが興味深いです。
・Yuck
ロンドン発大人気インディーロック系現行シューゲイザー。Dinosaur Jr.やPavementの影響が色濃いタフで美しいサウンドのシューゲイザーを展開しています。前身がCajun Dance Partyと言うインディーロックのバンドで、そちらも爽やかで最高です。
・Westkust
蒼く瑞々しいスウェーデン産シューゲイザー。ギターがエッジーでドリーミーかつポップで際立っている様に思います。所謂音の壁を作るような音では無いですがそれでも轟音で、新しい音として響きました。
・シューゲイザーとブラックメタルのマッシュアップ、ブラックゲイズ。
Alcestを開祖とするこのジャンルですが、憶測ですがブラックメタルの自浄が大きなテーマとしてあるのかなと思います。ポストシューゲイザーと言うよりは、ポストブラックメタルという発想を持ったアーティストが多いように見受けられます。
・Adorn
2012年結成、イングランド発のポストブラック / ブラックゲイズ。ストリングスの採用や中世趣味のジャケット、どこまでも幻想的で透徹した楽音が印象的です。詳しいバンドの背景はネット上の情報が少ない事もあり今の所知らないのですが、個人的に愛聴しています。
・Alcest
言わずと知れたブラックゲイズの開祖。インタビューでの発言曰く、Niegeの内面に存在するFairylandという幻想郷を表現しているらしいです。冗談めいては居ますが、ヘブンリー・ブラックメタルを演奏したいという発言もありました。そのせいか音楽も幻想的かつ極めて耽美で、安息を感じる様な内容です。通底する幻想性も見逃せないです。
・Souvenirs d'un autre monde
強烈な安息と瞑想性、淡い感情とポエジーが美しい初期の名盤です。アコースティックな要素と轟音が同居しているのも素晴らしいです。幻想的。
・Écailles de lune
Alcestの作品で最もブラックメタルに接近した音源であり、月光滴る耽美な音響が展開される名盤です。個人的には今作がベストです。
・Spiritual Instinct
タイトルが示唆する通りAlcestの作風は全作品を通じてスピリチュアルで、それもブラックメタルの自浄と言うテーマと繋がって来るのだと思います。最新の名盤です。
・Have A Nice Life
2008年デビュー、アメリカ出身のブラックゲイズ / ゴシックバンド。一部のシューゲイザーに流れる宗教的な至福がこのバンドでは死の至福に置き換えられており、そこにゴシックな意思を感じます。Joy DivisionやDead Can Danceの影響も色濃く好感度が高いです。Sea of Worry収録のDestinosに見られる地獄を賛美し神とキリストを否定するマニフェストが強烈に印象に残っています。
・Holy Fawn
ポストロック、シューゲイザー、ブラックメタルを審美的にマッシュアップする現行シーンの要注目アーティスト。透徹した静寂を感じるパートと轟音パートの対比が美しく、ポストロックの高度な楽曲展開とシューゲイザーとブラックメタルの折衷された轟音が調和しているのを感じます。他のブラックゲイズのバンドと比較するとより直截的にブラックメタルの影響を取り入れており、デスヴォイスや楽曲終盤の轟音に表れている様に思います。
・Planning For Burial
アメリカ産現行ドゥームゲイズ / ブラックゲイズ。実質Thom Wasluckのソロユニットの様です。ドゥームゲイズと言う呼称を受けている通り、Have A Nice Lifeと比較するとドゥームでスローなサウンドが印象的で美しく、影響源としてはブラックメタル以外に前述したようにドゥームメタルが挙げられると思います。Chelsea WolfeやDeafheaven、Have A Nice Lifeとの共演歴がある様でその辺りはシーンとして繋がっている様です。
・Sadness
その名の通り悲愴に溢れた耽美な轟音を掻き鳴らすアトモスフェリック・ブラック / ブラック・ゲイズバンド。このバンド以前はデプレッシヴ・ブラックメタルの作品を創っていた様です。
・Sleeping Peonies
デプレッシヴ・ブラック的なデスヴォイスとそれと対比する様な多幸感のある楽曲が特徴的な現行ブラックゲイズ。個人的に折りを見て聴き返しています。
・国産シューゲイザー
この章では気に入っている日本のシューゲイザーを列挙していこうと思います。日本という括りではありますが、民族性に着目している訳では無いのでご了承ください。
・ART-SCHOOL
2000年結成、耽美派シューゲイザーバンド。透徹したサウンドと暗鬱かつ耽美で韻の感覚に優れた歌詞が美しいです。正直に申し上げるとファンになってから日が浅く、大した事を言えないのが心残りです。音楽や文学、ポランスキー等の映画へのFlipper's Guitar文脈のオマージュも印象深いです。
・cattle
Sarah Recordsや初期My Bloody Valentineの影響が色濃い現行の国産シューゲイザー。MBVで言うとSunny Sundae Smileだと思うのですが、ポップにアップデートされているというか、時代を考えると自明かもしれないですがより洗練されている印象を受けます。
・cruyff in the bedroom
1998年に結成されたClaire Recordsにキング・オブ・シューゲイザーと呼ばれる日本の古参シューゲイザーバンド。壮大で耽美な楽曲展開とサウンドが魅力的です。
・For Tracy Hyde
ガリレオガリレイに代表されるJ-Popとシューゲイザーのマッシュアップ。ポスト渋谷系を掲げているらしいです。耽美で淡い楽音に内省的でリリカルな美しい日本語詞が乗る展開はどこまでも美しく、特に2ndアルバムを愛聴しています。
・Luby Sparks
2016年結成、東京で活動する現行シューゲイザー / ゴシックバンド。初期のインディーロック路線の音源も愛聴してますし、転身後のゴシックなシングルも好きで折を見て聴き返してます。彼らのゴシックへの転身は今後のゴスリヴァイバルの普及を象徴している様に思えました。
・Plastic Girl In Closet
イノセンスとポップセンス溢れる楽曲およびサウンドと時折垣間見せる残酷が印象的なリリックが美しい現行国産シューゲイザー。最新作であるeye cue rew seeが名盤だと思います。
・plums
札幌小樽発現行和製シューゲイザー。美しい轟音とJ-pop的歌唱が同居していて素晴らしいです。このバンドも羊文学との共時性を感じます。最近良く聞いてます。
・クレナズム
J-Pop的な歌唱とシューゲイザー度が増した羊文学の様なサウンド、ドラマチックな展開が印象的な現行のシューゲイザーバンドです。羊文学との共時性を感じます。その辺りはあまり詳しく無いのですが、きのこ帝国の影響が強いらしいです。
・みにくいうさぎの子
ヴォーカロイドである彩音ゆめをヴォーカルに据えて耽美なシューゲイザーを展開するソロ・ユニット。ドリーミーかつ轟音なギターの音響が美しいし、ヴォーカロイドとシューゲイザーの相性は良いのだと気付かされました。
・死んだ僕の彼女
現行国産シューゲイザーの代表格だと個人的に認識しているバンドです。へヴィーミュージックの影響が顕著な透徹した轟音とそれと同居する儚さ、九想図に描かれる死者の変化を彷彿とさせるリリック、テーマ上での死への接近が象徴的に見えます。名作EPであるIxtabの時期に見られた自覚的なものか無自覚なものかは分からないアゴニーの表現も強烈でした。
・揺らぎ
ユートピアンの精神性と静寂と轟音の対比、業を一切感じさせない透徹した楽音とエセリアルな歌声が印象深いです。Gregor SamsaのCompanyへのオマージュも巧みだと思います。
・溶けない名前
現行国産歌謡シューゲイザー。歌謡シューゲイザーを掲げる通り、昭和歌謡やアイドルポップの影響を受けていて親しみ易く、同時に耽美で素晴らしいです。インタビューで言及がある通り短歌の影響がある様に思え、日本的な湿り気はそこから来る所もあるのかなと思いました。
・17歳とベルリンの壁
東京出身現行和製シューゲイザー。ポップで抒情的な楽曲と低体温なヴォーカルが印象深いです。ギタリストがハードコアパンクとエモから影響を受けていると公言していて、その文脈の鮮烈なエモーションやエナジーを感じます。
・・・・・・・・・・(東京ドッツ)
正直アイドルには疎く、このグループがアイドル史上のどの文脈に属するのか判断しかねるのですが、シューゲイザーを前面に押し出しているので言及しておきたいと思います。アイドルらしい甘い楽曲とリリック、トランシーな展開が持ち味でしょうか。きみにおちるよるのドラムンベースとシューゲイザーのマッシュアップ的展開が鮮烈でした。
・最後に。
ここまで素人の駄文を読んで下さって有難うございます。本記事も現行の作家のレコメンドが主な目的なので、一組でも琴線に触れる作家が居れば幸いです。
ポストパンクについての私的雑感とレビュー
この記事ではポストパンクについての私見と個人的に気に入っているアーティストのレビューを綴っていこうと思います。傾向としてはゴシックなアーティストを列挙するつもりです。素人の個人的嗜好に沿った見解と選択であり、体系的に歴史を纏める為の記事では無いので抜けや不備、間違いが多々あると思われます。ご容赦下さい。
・1980年代初頭のポストパンク。
活動開始時期を顧みるとJoy Divisionの結成が1976年、Magazineの結成が1977年、Bauhausの活動開始が1979年、PILの結成が1979年でその辺りの時期がポストパンクの始動と言えると思います。広義のポストパンクのルーツは前述したバンドなのでしょうが、この記事で主に取り上げるゴシックな要素を持ったバンドのルーツはJoy DivisionとBauhausだと断言できると思います。
・Joy Division
元祖ポストパンク / ゴシックロックであり、伝説的なロックスターであるイアン・カーティスをメンバーに抱えたロック史に残るバンドというのが共通認識かと思います。余談ですが、The SmithsもJoy Divisionも共通してBuzzcocksについて積極的に言及しており、ポストパンクのルーツの一つとしてBuzzcocksのパンクロックの定型から逸脱したスタイルがあるのかなという印象を受けました。
・最終作、Closer
イアン・カーティスの死後発表された2ndアルバム。Unknown Pleasuresよりゴシック性と陰鬱さ、歌詞の内省性と文学性が際立ち、深化という言葉で片づけたくは無いですがバンドの音楽性がより優れたものになっているのが伺えます。特に「24 Hour」、「The Eternal」、「Decades」と続けて聴くとバンドのゴシックかつ退廃的、それでいて審美眼に優れた透徹した美学が伺える様に思います。「24 Hour」の陰鬱さとダークな高揚感が同時にある感覚が個人的な聴き所です。ジャケットの写真はイタリアのアッピアーニ墓所で撮影されたものらしいです。
「全てが上手く行かない事に気づいた。新しい治療法を見つけなくちゃいけない。この治療法には時間が掛かりすぎる。シンパシーに支配された心の奥底で、手遅れになる前に私の運命を見つけてくれ。(24 Hour)」
・Bauhaus
漆黒のサウンドとアートワーク、ピーター・マーフィーのカリスマが強烈なゴシック・ロックの先駆者ですね。ネット上に詳しい記事が無数にあると思われますので言及は差し控えます。名盤ばかりですが、個人的にはIn the Flat Fieldのエナジー溢れる作風が好きです。
・1980年代後半~90年代のポストパンク。
・The Birthday Party
ニック・ケイヴ率いる伝説的ポストパンクバンド。シアトリカルなセンスとダウナーさと高揚感が同居する様な特有の感覚、ノイジーなギターとニック・ケイヴの強烈な歌唱が印象深いです。ゴシックな演劇性と攻撃的な楽音。
・Christian Death
カリフォルニア産元祖デス・ロック。劇画的な反キリスト教性とルードな精神性、サタニックなアートワークが魅力的です。活動中期からメタルに転身していて、1988年リリースのSex and Drugs and Jesus Christが転換期に当たるのだと思います。劇画的サタニズムと死への情念。
・The Cure
ロバート・スミス率いる誰もが知るニューウェーヴ / ゴシックバンド。ネット上に詳しい方が無数にいらっしゃるので僕が語る事は無いのかもしれないですが、彼らの楽曲のポップネスと淡いゴシック性が好きで折を見て聴き返してます。影響元としてはSarah RecordsのAnother Sunny Dayが挙げられると思います。ペイルゴシックな精神と珠玉のポップ性。
・Eyeless In Gaza
1980年から現在まで活動を続ける、映像的かつ耽美で特異な音響とヴォーカルが際立つイングランド産ポストパンク。実験的でありながらネオアコースティック / ギターポップに通じる様な音楽性を持っていて好感度が高いです。下記の音源はリズムを注視すると前作よりシンプルになってしまったのですが、その分ポップさが際立っていて個人的なベストという感じです。The Cureのポップセンスに通じる所を感じますね。
・This Heat
実験性とインダストリアルに通じる病んだ質感、強烈な轟音が印象深い伝説的ポストパンク。へヴィーなリアリティーが主題にある様です。個人的には2ndが好きです。
・Dead Can Dance
ワールドミュージックや古代宗教音楽の要素をゴシックミュージックとマッシュアップする1980年代から現在まで活動を続ける伝説的グループ。初期の作風は兎に角闇が深いゴシックミュージックという感じですが、中期から後期は前述した通りワールド・ミュージックや古代の宗教音楽の影響を取り込んでおり、異端的音響として完成された音楽になっています。下記の音源は比較的初期に当たり、声楽へのアンチ・キリスト的な換骨奪取の意思が強く感じられるゴシックな音響となってます。彼らのファンなのでいつかはライブに行きたい所です。
・Depeche Mode
1980年のエセックスで結成された元祖シンセ・ポップ / ゴシックバンド。著名なバンドですので言及は差し控えようと思います。本国ではスタジアム級の人気を誇るバンドですが、日本での人気が周辺ジャンルのファンのみに困惑させられます。 2020年のロックの殿堂入りが目出度いです。
・The Membranes
1980年代初期から現在まで活動を続ける伝説的ポストパンクバンド。 1986年作Kiss Ass, Godhead!に収録されているViva! Spanish Turncoatで見せたヴォーカルの加工とビートの感覚はダークウェーヴ等を顧みても先鋭的なものだったのだろうなと思いますし、王道を行く楽曲展開のElectric Stormも今聴いても古びていないと思います。
・The Cleaners From Venus
ポップセンスが際立つ楽曲群とリアリズムに根差したリリックが印象深いです。ゴシックなバンドでは無いですが、個人的に気に入っているので言及しておこうと思います。
・Killing Joke
ロンドン出身で現在も活動する伝説的なポストパンクバンド。このバンドも詳しい方が多数居られますし、僕もそこまで詳しくないので言及は差し控えようと思います。個人的には初期のNW路線も良いですが、Hosannas from the Basements of Hellで見せたメタルとのクロスオーヴァー路線が好きです。
・Mephisto Walz
1985年にアメリカで結成された伝説的デス・ロックバンド。Christian DeathのBarry GalvinとJohn Schumanがバンド脱退後に結成したバンドです。Christian Deathと比較するとエセリアルな感覚が強く、ある種の聖性を感じる様に思います。
・New Order
Joy Divisionの後進であって伝説的なシンセ・ポップバンドであり、今も世界各地でツアーを行う現役のミュージシャンですね。このバンドも詳しい方が多数居られると思うので細かい言及は差し控えようと思います。個人的なベストはLow-Lifeですが、Get Ready以降の漂白された楽音と宗教的なエネルギーも捨てがたいです。
・Nick Cave & The Bad Seeds
ニック・ケイヴ率いる現在も活動を続けるポストパンクバンド。The Birthday Partyと比較するとシアトリカルなセンスと歌詞の内省性が増した様に思います。詳しい記事が他にもあるので言及は差し控えます。
・Nosferatu
ロンドンにて1986年に結成されたゴシックロック。ビートからギターまですべてがゴシックで好感度が高いです。憶測ですが、下記の楽曲を聴くとゴシック・メタルのルーツに当たるのではないかと。多少ノスタルジックに響く所はありますが、現代でも聴ける稀有なゴシックロックだと思います。
・The Pop Group
ブリストル発先鋭的ポストパンクであり既に鉄板として評価されるミュージシャン。ダブとポストパンクのマッシュアップがコンセプトなのだと思いますが、それだけでは説明の付かないブルータリティを抱えている気がします。
・The Wedding Present
インディーロック的なキャッチーな楽曲と親しみやすさが特徴的な1987年から活動を続けるポストパンクバンド。このバンドもマニアックに掘り下げている方が多数居られるので言及は控えます。
・2000年代のポストパンク。
この時期のデスロック / ゴシックロックが本当に好きなのですが、リアルタイムで聴いていなかったので2バンドしか取り上げられていないです。完全に執筆者の力不足です。
・Deadchovsky
徹頭徹尾ゴスで破滅的な2004年に活動を開始したポストパンク / デスロック。Spiritus Sancti Bizarreのジャケットが象徴する様に徹底して反キリスト教性を前面に打ち出していて好感度が高いです。Christian Deathの文脈に属するのかと思います。
・the Deadfly Ensemble
シアトリカルかつ徹底的にゴシックでダーク、囁くようなヴォーカルが特徴的な2000年代後期に活躍したポストパンクバンド。奇妙な映画を観ている様な、映像的な音楽でもあります。Sopor Aeternusの強い影響を感じます。
・2010年代以降、現行ポストパンク。
個人的に関心を持っているのがこの時期のポストパンクという事もあり、少し数が多くなっております。私見なので間違いかもしれませんが、大きく分けてNWの影響を取り入れる一派とゴシック / デスロックに傾倒する一派、80年代ポストパンクに回帰した一派がある様に思います。ここでは後の二者に属するバンドを列挙したいと思います。
・The Agnes Circle
80年代へのロマンティックな回帰とメランコリー、バリトンヴォーカルと構築度の高いゴシックな楽曲が美しく調和する現行ポストパンクデュオ。メランコリックで美しい楽曲に魅了されっぱなしです。
・All Your Sisters
悪夢的アトモスフィア漂う暗黒ポストパンク。荒廃したホラー的にも映る世界観とダークウェーヴの影響が印象深いです。インダストリアルな趣も感じます。
・ALIBICOUNTS
日本産現行ポスト・パンク。スティーヴ・アルビニの録音かと見紛う様な剥き出しでラウドなサウンドと強烈な高揚感が魅力的です。兎に角格好良いのでお薦めです。
・Bambara
スタイリッシュでダークな洗練された感覚とニック・ケイヴの様な露悪的にも聴こえるバリトン・ヴォーカル、完成度が高い楽曲群がどこまでも格好良い現行ポストパンクです。会う知人全員にこのバンドを推しているのでそろそろ迷惑な気もしてます。
・Blu Anxxiety
デジタルで荒廃した世界観とアナーキーな精神性、破壊的な楽音が際立つ現行ポストパンク。ニヒリスティックな姿勢が好感度高いです。積極的に新譜をリリースしている様で、今後の展開にも期待したいです。
・Body Stuff
悪夢的な感覚とルードな精神性、ハードコアパンクにも通じる楽曲展開を前面に押し出す2019年にデビューした現行ポストパンク。悪夢的テイストを伴って疾走するSpiesが近作だと冴えている様に思います。
・Cat Party
カリフォルニア産現行ポストパンク。80年代の諸作を彷彿とさせるオールドスクールな楽曲展開とサウンドが持ち味だと思うのですが、兎に角完成度が高く人にお薦めできる内容となってます。スタンダードな趣を感じますね。
・Charnier
王道を行くJoy Division直系の現行ポストパンク。歌唱法と声色がイアン・カーティスにかなり近く、その辺のファンの方が気に入りそうな内容です。
・Cemetery
死を直截的に想起させる様な強烈なサウンドを持ったポストパンク / デスロック。XVVXのゴシックに疾走する展開と緊張感、強烈なエネルギーはシーンを見渡しても類を見ないと思います。Infidelと並んで個人的な現行ポストパンクのベストです。死への接近と張り詰めた緊張、ゴシックなリフワーク。
・Chain Cult
ギリシャ発現行ポストロック。デスロック的なフレージングを採用しつつも王道ポストパンクに留まっているのが特色なのかなと思いました。張り詰めたヴォーカルが格好良いです。
・Crowd of Chairs
Throbbing Gristle文脈のアナーキーでインダストリアルなヴォーカルとビート、脱力した感覚、構築度が高い楽曲展開が魅力的に映りました。彼らの様なバンドの音源を聴くとポストパンクとインダストリアルが近いジャンルだという事実を想起させられる気がします。
・Curse
デペッシュ・モードがモダナイズと先鋭化を迎えた様な現行シンセ・ポップユニット。ダークウェーヴとインダストリアルの影響を受けているのだと思いますが、最終的にデペッシュ・モード的なシンセ・ポップに回帰しているのが興味深いです。試聴音源が見つからなかったのでBandcampのリンクを貼っておきます。
https://fakecrab.bandcamp.com/album/metamorphism
・Girl Band
2011年にダブリンで結成された現行ポストパンクバンド。ビザールで精神病的な感覚と脱臼したリズムが高度な音楽性の中で纏まっている印象を受けます。Holding Hands with JamieのジャケットはGrayのFade of宛のオマージュですね。
・Haunted Horses
シアトル発現行ポストパンク。破壊的に打ち鳴らされるインダストリアルなビートとシンセが兎に角格好良いです。KEXPでのライブの実績がある通り、かなりの人気を博している様ですね。
・Hemgraven
詳細不明なゴシック路線のポストパンクバンド。Klubb Död Compilation, Vol. 1というコンピレーションで知ったのですが、知名度が低いのが信じられない位高水準のポストパンクを演奏しています。
・His Electro Blue Voice
インダストリアルなノイズの洪水とアナーキーでパンクなアティテュードを発散するヴォーカル、ルードでタフな精神性が好感度高めな現行ポストパンク。リリース元があのSub Popで個人的に驚きました。
・Horror Vacui
ホラー映画的でオカルティックな世界観と徹頭徹尾ゴシックでダークなサウンドが美しいイタリア / ボローニャ出身のアーティスト。メンバーはクラスト・コアのバンドでも活躍するらしいです。
・Iceage
ハードコアパンクとポストパンクをマッシュアップした様な音楽性が印象深い現行のポストパンクバンド。個人的に彼らのデビューアルバムで結構な衝撃を受けました。
・Korine
フィラデルフィア出身、デペッシュ・モード直系耽美派シンセ・ポップ。80年代のシンセ・ポップをアップデートしようという強い意思が伺え、個人的に好感を持っているアーティストです。
・Locean
悪夢の中を徘徊する様なダウナーな音楽性とkaelan Miklaにも通じる女性ヴォーカルが特徴的で格好良い現行ポストパンクです。某所ではThe Birthday PartyとScratch Acidが引き合いに出されてましたが、それも頷ける内容になってます。
・LAURA PALMER'S
シューゲイザーバンドである死んだ僕の彼女のギタリスト率いるデスロック / ポストパンクバンド。Twin Peaksのある種のヒロインであるLaura Palmerの名をバンド名に据えている通り、デヴィッド・リンチの作品の様な悪夢的質感が印象深いです。個人的にはInfidelやCeremony辺りの現代的なデスロックとの共時性を感じます。
・Infidel
現行のポストパンクですが、カナダ出身という事以外の情報を公開しておらず、詳細が謎に包まれているので詳しく調べてみたい所です。アンチ・キリスト的な精神性と病んだ感覚、快楽主義やヘイトを称賛する姿勢が興味深いです。個人的な現行ポストパンクのベストに挙げておきます。現在は活動を停止している様です。
・Isolated Youth
・1stEP、Warfare
ダウナーで呪術的、獣性を感じさせるヴォーカルが際立つ「Oath」、Joy Divisionの24 Hourを彷彿とさせる「Safety」が聴き所でしょうか。獣性とフォルマントに恵まれたヴォーカル、冷たく張り詰めたギター、ソリッドでポストパンク性を体現するベースとドラム。フルアルバムへの期待が高まります。
「ここに安全は無い。貴方にとっても私にとっても。待つ電車も無い。私は孤独だ。(Safety)」
・Kælan Mikla
呪術的かつ透徹した楽音と強烈なデスヴォイスが印象深い現行ゴシックロック。闇の中を漂うような音楽性ですが、強烈な女性ヴォーカルがその中で眩く感じます。
・Mode Moderne
カナダ発耽美派現行ポストパンク。爽やかなインディーロック的感覚とポストパンクの精神が同居しているといった趣が心地良く愛聴してます。Drab Majestyがお好きな方にお薦めできるアーティストだと思います。
・Moira Scar
オカルティックでダークかつダウナーな感覚が格好良い現行デス・ロック。シアトリカルなセンスとデスヴォイスが好感度高いです。下記の楽曲の主題はファシズムと順応への抵抗らしいです。個人的に今推してるアーティストですね。
・NAUT
ブリストル発現行ポストパンク。Joy Division直系のゴシックなリフとシンセで幕を開けるSemeleで始まる最新のシングルが好内容でした。兎に角力強いというか、骨太なサウンドが魅力的なバンドで80年代のポストパンクのファンの方にお薦めしたいです。
・Night Sins
シューゲイザーバンド、Nothingのドラマー率いる耽美派ポストパンク / ゴシック・ロック。個人的にはTo London Or the LakeのNW路線も良いですが、New Graveの耽美で王道を行くポストパンク路線が好きで愛聴してます。
・RAKTA
ブラジル産の徹底的に病んだポストパンク。自閉的にも映る病んだサウンドスケープが格好良いです。悪夢の中を漂う様な感覚で満ちています。自閉と悪夢の快楽性。
・Sextile
強烈なオカルティズムの影響と80年代への憧憬が漂う現行ポストパンク。バンド名の由来も占星術から来るらしいです。ポストパンクには珍しくアンビエントな楽曲が存在するのも見逃せないです。
・Slow Riot
ゴシックで力強いサウンドが魅力的な、残念ながら2019年に解散してしまったポストパンクバンド。インディーロック的なサウンドでもあると思います。
・Soft Kill
ポストパンクとダークウェーヴの境界に位置する様な音響と展開が美しい現行ポストパンク。個人的には2018年作のSaviorをベストに推したいです。
・Soviet Soviet
イタリア発ゴシック / ポストパンクバンド。透徹したゴシックでハイボルテージなサウンドと抒情的で完成された楽曲群が魅力的です。個人的にはFateで見せたゴシックなポストパンク路線が好きです。
・Spectres
2006年から活動を続ける、ポップセンスが際立つ楽曲展開と80年代の闇から抜け出した様な楽音が鮮烈な現行ポストパンク。去年発表されたシングルが素晴らしかったです。
・True Body
リッチモンド発現行ポストパンク。デペッシュ・モードの様なロマンティックなヴォーカルがポップなシンセが印象的なバンドサウンドに乗る展開で格好良いです。重複しますが、デペッシュ・モードやジョイ・ディヴィジョンのLove Will Tear Us Apart Againが好きな方にお薦めしたいです。
・Wax Chattels
ダークウェーヴの影響とモンドで強烈なシンセワークが鮮烈で格好良い現行ポストパンク。ゴシックで型破りな趣を感じさせ好印象です。
・最後に。
相変わらずの拙い文章をここまで読んで下さって有難うございます。正直な所を申し上げると現行アーティストのレコメンドが主な目的なので、一組でも琴線に触れる作家が居れば幸いです。
ダークウェーヴについての個人的雑感とレビュー
本記事では個人的なダークウェーヴについての雑感と気に入っているアーティストについて言及していこうと思います。体系的に歴史を纏める為の記事では無く、入門編ですら無い素人の所見ですので各所に抜けや不備、間違いがあると思われます。悪しからず。
・初期ダークウェーヴ
正統なルーツはJoy DivisionのLove Will Tear Us Apart AgainやCloserの諸作等の印象的なシンセサイザーの採用、Twilight Ritual、Marquis de Sade、Asylum Party、Siouxsie And The Banshees等多岐に渡ると思われますが、ここではそれ以降台頭したアーティストの中から僕が愛聴している作家を取り上げたいと思います。知識不足で数は少ないですが。完全に余談ですが、ある一定の時期のアーティストのイメージもあるのだと思いますが、初期ポストパンクとダークウェーヴがメジャーなフィールドで混同される事態が各所で起きていて困惑しています。その曖昧さが何処から来るのか興味深く思っています。
・Das Ich
現在も活動を続けるオールドスクール勢の代表格。どこかシアトリカルでキッチュな趣を感じるヴォーカルとその後のミュージシャンにも影響を与えたであろう邪悪なコーラスワークが印象深いです。極端に歪められたキッチュな演劇性の黒いユーモアとの同期。
・Diamanda Galás
強烈なハイトーンヴォイスとチャントの様な歌唱法が際立つカルト・クイーン。You Must Be Certain of the Devilというアルバムでダークウェーヴ的な展開を見せていて、10代当時の僕に強烈な印象を残しました。ヴォーカリゼーションでの実験性と古典的サタニズム。
・Black Tape For Blue Girl
キリスト教とは違う異端的な聖性と幻想性を抱えた、主にネオフォーク的な作風やエセリアルウェーヴと呼ばれるダークウェーヴに近似した音楽を展開する当該ジャンルのルーツであるアーティストの一組です。ダークウェーヴとして取り上げるのは音楽性を検討すると憚られる部分もありますが、現行ダークウェーヴのルーツの一つだと思われるので言及しておきたいです。異端的聖性と幻想、反キリストの為の儀式性。
・9thアルバム、HALO STAR
2004年に発表された傑作であり個人的な彼らのベストです。涜神とキリストに対する冒涜をエロティックかつ背徳的に演奏するTarnishedが全体を通して聴いても際立っている様に思います。リチュアルなダークウェーヴであるTarnishからネオフォーク的で彼らの作品に通底する聖性を感じるYour Love Is Sweeter Than Wineまで楽曲の幅が広く、初期のアルバムには無い広がりを見せています。
「救世主がステージから落ちて来た。彼は誰かの腕に崩れ落ちる。傷が引裂かれて開き、欲望が晒される。僕たちは彼の魂の一部を分捕る。(Tarnish)」
・Sopor Aeternus & The Ensemble Of Shadows
ゴシックの一種の武装 / 装飾である演劇性を極端に推し進めた90年代から活動する伝説的アーティスト。ゴシックなチェンバー・ポップという趣もあり、美声も相まって非常に聴き易く、暴力 / チルという一時期Twitterで流行した二元論に沿うとチルに属するのだと思います。もっと詳しい方がネット上にいらっしゃると思われますので詳しい言及は差し控えますが、アンダーグラウンドシーンでは伝説的な存在らしいです。囁くようなヴォーカルと重複しますが美しい声色、シアトリカルなセンスにCurrent93のデヴィッド・チベットとの近親性を感じました。
・個人的に気に入っている現行ダークウェーヴ。
・ADULT.
モンドでアシッド、ダークなシンセワークとビート、凛々しい女性ヴォーカルが特徴的な比較的最近のダークウェーヴ・ユニット。2018年の前作も良かったですが、2020年リリースの新譜に期待しています。先行トラックが名曲なので。
・Ash Code
ポストパンク性とダークウェーヴ性が上手く調和した最近のシングルも良かったですが、個人的には一種の完璧なダークウェーヴである2018年発表のPerspektiveを推したいです。当然愛聴しているのですが、その完成度の高さは中々見られないものなので。
・Boy Harsher
現行シーンではトップクラスの人気だと思われる耽美系ダークウェーヴ・ユニット。楽曲も演奏も完成度が高いので愛聴してます。現地での人気は凄まじいらしい。そもそもこのジャンル自体あまりメジャーなものでは無いですが、日本とのギャップに一抹の不安と悲しさを覚えますね。耽美性と突き抜けた完成度。
・Box And The Twins
ドイツを拠点に活動するユニット。ダークウェーヴには比較的珍しい女性ヴォーカルと透徹したシンセワーク、ドリーミーな世界観が美しいです。ジャケも耽美。夢想と反キリストの為の暗黒シンセ・ポップとして響きました。
・Circa Tapes
病んだポストインダストリアル的な質感と脱力した感覚、邪悪さや毒気を前面に打ち出すサウンドとアートワークが印象深いです。前述した点を除いてギターを注視してみるとHealthにも通じる所がある様に思えます。取り上げている3rdアルバムは再発音源で有名なMedical Records LLCからのリリース。イーヴィルな世界観とポストインダストリアルなギターワーク。
・Cloudland Canyon
2006年から活動を続ける兎に角ポップである種瞑想的な楽曲が目立つシンセ・ポップユニット。どう考えてもダークウェーヴでは無いですが、個人的に気に入っているので言及しておきたいです。クラウトロックの影響と瞑想性が特筆すべきポイントかと思います。
・Cold Cave
ポスト・インダストリアルアクトであるVatican Shadow、ノイズ名義のPrurient等で活躍するDominick Fernow率いる現行ダークウェーヴシーンの立役者。初期は古典的なダークウェーヴを展開していましたが、4thアルバムであり最終作であるCherish the Light Yearsでシンセ・ポップとギターを大胆に取り入れ鮮烈な展開を見せました。ヴォーカルに感じるナルシシズムも作品の色彩になっている様に思います。現在は活動を停止しているのが残念でならないです。アンチ・ヒロイックなDominick Fernowの佇まいと強烈なロマンティシズム、牧神の死を勝利として歌い上げる神に明確に反する精神性。
・DBC
徹頭徹尾轟音かつノイジーで、同時に甘さも感じる漂白されたシンセワークが冴える2010年から活動を続けるユニット。愛聴盤です。天国への風刺とブルータリティ、轟音の間に垣間見えるスウィートネス。
・Death's Head
某所の年間ベストで知った脱臼した感覚とシンセとビートが織りなすドライヴ感、インダストリアルなアレンジと徹底的に病んだ感覚が鮮烈な地下ダークウェーヴ。Discogsに登録が無い辺りもアンダーグラウンドなのでしょうか。Bandcampは存在します。病理とインダストリアルな質感、フィジカルな力強さ。
・Exploded View
デヴィッド・リンチの作品群の様な悪夢的アトモスフィアと暗鬱な展開、どこか子供の様な女性ヴォーカルが独創的な現行ダークウェーヴ。Obeyでのスローな悪夢は忘れがたい印象を残しました。
・Gazelle Twin
強烈な毒と只管反復されるビートとシンセが心地良い先鋭的なダークウェーヴ。Gazelle Twinの存在をダークウェーヴの新しい動きの一つとして捉えていますが、Pastralでのイギリスの伝統への強烈な風刺精神と諧謔はシーンを見渡しても類を見ないと思います。
・Led Er Est
ノイジーでディストピア色が強く、初期コールドウェーヴ的なミニマルなシンセワークとヴォーカルのノイズ交じりのエコーが特徴的な2010年代初頭に活躍が目立ったダークウェーヴ・ユニット。ブルータルにも聴こえるヴォーカルが個人的な好みで折を見て聴き返しています。ミニマルシンセへの偏愛とブルータルなエコー。
・Linea Aspera
漂白された楽音と凛々しく端正な女性ヴォーカルが特徴的な最新のダークウェーヴ・ユニット。2018年発表の2ndアルバムが名盤で愛聴してます。ライブが素晴らしい様なので機会があれば聴きに行きたいですね。
・M!R!M
改名してドリーム・ポップに転身した事で一定のポピュラリティを獲得した彼らですが、初期は紛れもないダークウェーヴでした。タフでノイジーなギターと性急な展開、ラウドな楽音が特徴的でアルバムは見逃せない仕上がりになってます。
・Second Still
骨太でタフなビートとポストパンクに近いギターとベースの鮮烈なサウンドが印象的な現行ダークウェーヴ。ヴォーカルの歌唱法や旋律もポストパンク的な印象を受けます。くすんだ閃光を感じるギターワークとThe Soft Moonと共通するポストパンク的な高揚感を持った展開。初期はギターとベースが音楽性の要だったのだろうなと。
・SDH Semiotics Department Of Heteronyms
2018年から活動を続ける現行ダークウェーヴユニット。鮮烈にダークで過剰さを抱える楽曲からシンセ・ポップ的な歌唱が際立つ楽曲まで幅広い展開を見せており、今後の活動が楽しみなユニットです。残酷さと過剰なダークさ、ニヒリズムの合間に垣間見える強烈な毒。
・Selofan
某ショップで知ったユニット。ヴォーカルとシンセの旋律がメランコリックかつ完成度が高いので安心して聴ける良ユニットです。ロマンティックな古典的ゴスのテイストと王道を行く展開。
・She Past Away
トルコ発の王道を行くダークウェーヴ。ダークウェーヴの熱心なリスナー以外の層にもかなりの人気を博しており、既に鉄板の域だと思います。メランコリックで耽美なギターワークと良い意味で保守的なビートの展開、心地よく響くバリトンヴォーカルが完璧な調和を見せる彼らの音楽に魅了されっぱなしです。
・Tropic of Cancer
今は亡きBlackest Ever Blackの看板アーティストの一人、Tropic of Cancer。徹頭徹尾ダークでダウナー、スローでポップさを一切欠いたモノトーンのダークウェーヴを展開しています。潔い姿勢で好感度が高いです。モノクロの情念と砂漠的な光景。
・The End of All Things
シングルとEPを纏めた編集盤。初期のリリースの為比較的ポストパンク色が強く、そちらのリスナーが気に入るのではないかという内容です。ダウナーでスローな音楽性と拘束と薔薇をモノトーンで描く耽美なジャケットが好印象ですね。
・唯一のアルバム、Restless Idylls。
The End of All Thingsと比較すると清涼感の様な感覚が増していて、くすんだモノトーンから鮮烈なそれに変化したような印象を受けます。ドローン感覚を持ったヴォーカルとダークでダウナーなシンセは健在で、一際冴え渡っています。
・TR/ST
ノイズ交じりの耽美なシンセサイザーと王道を行くビート、ベクトルで言うとCold Caveの対極にある端整なヴォーカルが美しい現行ダークウェーヴシーンの代表格の一人です。近作でシンセ・ポップに接近した通り、初期からシンセ・ポップのカラーが強く比較的聴き易いと思います。勿論ただ聴き易いだけでは無く、強烈な毒を持ったアーティストでもありますが。
・1stアルバム、Trust。
ノイジーで耽美なシンセワークが強烈なShoomから始まり、ポップでアッパーなSulkで終わる初期の名盤です。Nu-Discoとの近親性を感じる甘さを感じます。
・The Destroyer, Vol. 2
元々シンセ・ポップ色が強いアーティストですが、今作では更にシンセ・ポップへの接近を強めていてポップで聴き易いです。She Past Awayで言うとDisko Anksiyeteに相当するアルバムですが、同時期に両者がシンセ・ポップに接近したのは共時性を感じ、興味深いです。
・Perturbator
ディストピアSF的な暗さと少し病んだ質感、ベースミュージック文脈のビートの感覚とトランシーでレトロフューチャーなシンセワークが際立つ現行ダークウェーヴの人気作家ですね。Neo Tokyoという楽曲がある通りAKIRAの世界観を彷彿とさせる所がある様に思います。最近の作品では王道ダークウェーヴに回帰していて好感度が高いです。レトロフューチャーなディストピアSF的世界観と極彩色のネオン。
・The Uncanny Valey
レトロフューチャーでトランシーで眩いシンセが極彩色のネオンをばら撒く彼の5thアルバムであり最新作。個人的には最近のモノトーンの王道ダークウェーヴ路線も良いですが、この時期の色彩感覚溢れるレイヴィーな轟音も捨てがたいです。
・New Model - EP
前年のThe Uncanny Valleyと比較すると感じる色彩が完全にモノトーンに変化しており、ビートや展開、シンセワークもダークに仕上がっています。以前より歌とメロディーを重んじているのも伺えます。Vanta Blackで個人的に好きなシューゲイザーのベスト10には確実に入るOddZooが客演で参加しているのも見逃せないですし、轟音や何処かに感じるポップさも健在なので彼のEPだとこの音源が個人的なベストです。
・Qual
2015年に名門Avant!からデビューを果たしたダークウェーヴ / EBMユニット。優れたポストパンクバンドであるIsolated Youthのリミックスで一躍名を上げたのだと思います。グリッチした極彩色の病んだディストピア的光景とアゴニーの表出、アシッドなミニマル・シンセの猛毒。
・The Soft Moon
初期から一貫してアンビエンスから離れた乾いた質感とロウな音質を持っており、独創性やダークウェーヴ特有の高揚感という意味で好きなアーティストです。最近の作品はポストパンク色が強く、Burnでの印象的で乾いたギターとエレジーを感じるヴォーカル、強烈な高揚感を持った楽曲展開にそれが伺える様に思います。
・Twin Tribes
2018年に初めて作品をリリースした比較的新しく、ゴシックの王道を行く低音ヴォーカルと耽美なギターワークが美しく個人的に好感度が高いアーティストです。2ndアルバムが名盤で、一般的な評価もそうなっている様です。リリース元のYoung & Cold Recordsもダークウェーヴ系のメディアであるCold Experiment曰く要注目らしいです。
・Youth Code
2012年から活動するダークウェーヴ / EBMデュオ。どちらかと言うとEBM / インダストリアルに属するのかもしれないですが、周辺ジャンルの中でも際立って格好良いので広義のダークウェーヴとして言及しておきたいと思います。パンクなアティテュードを発散するヴォーカルとThrobbing Gristle文脈のシンセワーク、直截的で分かり易くアッパーな楽曲展開が特徴的です。兎に角格好良いです。
・ダークウェーヴの新しい動き、実存主義からの離反。
ゴシックカルチャーには80年代の軽薄なメインストリームに対する反動としてへヴィーな実存主義を選び取ったという歴史があり、オールドスクールなゴシックとサルトルに端を発する実存主義は切り離せない関係にありますが、最近の一部のダークウェーヴ、Grimes、Zola Jesus、Azar Swan、Drab Majesty、Céline Gillain、Health等のアーティストはその哲学から意識的に離脱しており、実存主義が必然的に抱える土着にも似たリアリズムや重いリアリティーを感じさせない作風になっています。現在の重く憂鬱な社会を顧みるとあまり有効な武器では無いという事だと思われます。ファッション界隈のムーヴメントだがパステルゴス等の新しいゴスの動きもその系譜に属するのだろうと思います。以下に該当するアーティストを列挙します。
・Grimes
ダークウェーヴという枠では語り切れない女帝Grimes。モノトーンを基調とするダークウェーヴの楽音に極彩色の色彩感覚とキッチュにも映るセンスを持ち込んだのは偉大な功績だと個人的には思います。余談ですが日本アニメのファンらしく現在のTwitterのアイコンが異種族レビュアーズというアニメのキャラクターで少し笑ってしまいました。
・最新作、Miss Anthropocene
旧作に見られたどこか日本アニメ的でもあるキッチュさは影を潜め、アンビエンスがより強まった洗練されたダークウェーヴ/アート・ポップとなっており個人的なGrimesの作品でのベストです。これも余談ですが、アルバムのテーマであるアントロポセン=人新世、つまり人類が地質や生態系に影響を与える新しい地質時代については新海誠の天気の子でも言及がありまして、前述した通り日本アニメのファンであるGrimesはもしかしたら視聴していて、そこから着想を得たのではないか?という個人的な憶測があります。
・Zola Jesus
現行のダークウェーブの中でもGrimesと並んで高い知名度を誇るダークウェーヴ・ディーヴァ。耽美なシンセやビートもそうですが、鮮烈なディーヴァ性を抱えたヴォーカルが音楽性を特徴づけている様に思います。
・6thアルバム、Conatus。
名門Sacred Bones Recordsからのリリースです。ヴォーカルの色彩感覚とディーヴァ性は全アルバムを通して聴いても特に際立っているのではないかと思います。個人的なベストアルバムです。
・最新作、Okovi。
讃美歌からの換骨奪取の意思が伺えるDomaで幕を開ける今作が現在の最新作です。トライバルにも聴こえるビートと増々ディーヴァ性を増したヴォーカルが鮮烈なExhumed、オールドスクールなコールドウェーヴを強襲したと思われるシンプルな展開とシンセワークが甘美なRemains等聴き所が多く好きなアルバムです。
・Azar Swan
ポストインダストリアル・ダークウェーヴアクト。現在四枚のアルバムをリリースしていますが、歌を主軸に据えたGrimesやZola Jesusの影響を感じる初期を顧みると3rd以降の音源はノイズとへヴィーなリアリティーに満ちていて、作風の激変に驚くと同時に評価が定まった作風を変化させることを恐れない姿勢に感心しました。最新作の最後の曲であるThe Vengeful Sunでのスクリームを聴くとブラックメタルの影響が伺えて、歌から離れノイズと轟音に向かった源泉はそこにあるのだと思います。Vatican ShadowとCut Handsが作品に関与したという事実が示す通り、彼らはノイズ/インダストリアルの影響下にあり、変化は予め決定されていたのかもしれないですね。
・2ndアルバムであるAnd Blow Us a Kiss
歌に比重が重く置かれていて、サウンドとビートはVatican Shadowの様なポストインダストリアルな趣を感じさせます。鮮烈な旋律と強烈なビートが冴えるラブソングであるFor Last and Foreverが白眉でしょうか。
「貴方の香りを私の香水として使って、私は貴方の愛を天国のように身に着ける。永遠に。(For Last and Forever)」
・最新作、The Hissing of a Paper Crane
2ndに見られた色彩と歌を喪失したノイズと轟音の海。ポストインダストリアルなビートの感覚は依然として健在です。ブラックメタルとノイズミュージックの影響が顕著で、最終曲The Vengeful Sunのヴォーカルにそれが伺えます。個人的には実験精神も含めて彼らのベストとして推したいです。
・Céline Gillain
身体性が欠落したサウンドとビートに実存をあまり感じさせない歌が乗る先鋭的な現行ダークウェーヴ。ポップスに対する風刺としてのパロディはSelofanのHysteriaに見られる様にダークウェーヴの古典的な方法の一つですが、Fight or Flightでのフレンチポップのパロディの様なコード進行と旋律もその文脈に属しています。オールドスクールでキッチュな旧来的手法とはかけ離れていて音楽性に貢献する手法を取っており、そこに先鋭性があるのだと思いました。身体と実存の欠落したケミカルな毒気とSF感覚を持った先鋭的ダーク・ウェーヴ。
・Drab Majesty
とにかく良質な作品しかリリースしないダークウェーヴ / ドリーム・ポップのユニット。最近の作品はダークウェーヴという形容が相応しいのか分かりませんが、古典的では無い新しいダークウェーヴとドリーム・ポップ、ひいてはコクトー・ツインズとの折衷に成功しています。
・彼らの人気を決定付けた最新作、Modern Mirror。
ドリームポップ、引いてはコクトー・ツインズへの接近がポピュラリティを獲得した要因の一つだと思われますが、それにしても美しい煌びやかなサウンドで来日公演に行き損ねたのが後悔として圧し掛かっています。因みにPerturbaturも逃してしまいました。
・Health
言わずと知れた現行ダークウェーヴ唯一のオーヴァーグラウンド化したアーティスト。Grand Theft Auto Onlineのサウンドトラックを手掛ける等メジャーなフィールドにも爪痕を残す彼らの音楽は、ダークでありつつ取っ付き易いメロディーラインやソリッド過ぎないビート感覚を持っていてオーヴァーグラウンド化に結び付いたのが容易に理解出来ます。リミックスアルバムでのインディーロックやジャングル、メタルとのクロスオーヴァーも印象深いです。参考までに目立った参加者を挙げておきますと、ジャングルのCFCF、メタルシーンで活躍するJK Flesh、インディーロックシーンの古参であるXiu Xiuなどが挙げられます。個人的にはJPEGMAFIAとの共作シングルも見逃せないですね。
・2ndアルバム、Health。
リチュアルな暴走するビートとThrobbing Gristleの様な殆ど無調の声とシンセサイザーが目立つ初期の名盤です。僅かに聴きとれる旋律に後期Healthの作風への兆しが感じられるます。インダストリアル・カルチャーの影響が顕著で、それはThrobbing Gristleに象徴される自浄運動以前の野蛮なそれだと思われます。
・Nu-Discoに接近した7thアルバム、DISCO3
Nu-Discoの要素をダークウェーブに大胆に取り入れた7thアルバム。現在の作風に繋がる転換期に相当するのだと思われます。この時期から浮遊感を持ったある意味シューゲイザーの様なヴォーカルが取り入れられ始め、彼らがオーヴァーグラウンドな作家だという事を象徴し始めたのだと思いました。個人的にはNu-DiscoのアーティストだとJohn Talbotを想起してしまいます。
・最新作、VOL. 4 :: SLAVES OF FEAR
インダストリアル・メタルの要素が採用されていて、NINの様なギターと派手なリズムチェンジ、キックの手数の多さなどにそれが伺えます。轟音と同居するシューゲイザーの様な旋律はここでも健在です。轟音に対位法としての甘い旋律が乗る展開はその方法論と類似している様に思います。
・最後に。
ここまで素人の駄文を読んで下さって有難うございます。一応申し上げて置くと執筆者の力不足と言いますか、リアルタイムでの聴取経験が無くネットにアーカイブされていないので90年代のあまり有名では無いアンダーグラウンドなダークウェーヴについて言及出来ていなく、それは記事の不備の一つだと思います。反省しつつ音源を入手次第随時更新したいと思います。
春日井建 / 未青年
「大空の斬首ののちの静もりか没ちし日輪がのこすむらさき」
「空の美貌を恐れて泣きし幼児期より泡立つ声のしたたるわたし」
「唖蝉が砂にしびれて死ぬ夕べ告げ得ぬ愛に唇渇く」
「太陽が欲しくて父を怒らせし日よりむなしきものばかり恋う」
「くちびるを聖書にあてて言ふごとき告白ばかりする少年よ」
「水葬のむくろただよふ海ふかく白緑の藻に海雪は降る」
「羽抜きし蝶を投げつつ聲あげき赤芽の森のわが首領の日」
「兄よいかなる神との寒き婚姻を得しや地上は雪重く降る」
「半獣の生血青ざめ身を巡る花冠を大地に踏みつぶすとき」
「火の剣のごとき夕陽に跳躍の青年一瞬血塗られて飛ぶ」
「行き交へる男女が一瞬かさなれるはかなき情死をうつす硝子戸」
「灰色の霧の餌食となる夜を影よりあわく人はさまよふ」
「夜空には骨片のごとく見えをらむ不眠の窓をよぎる雪粒」
「いくにんの狂詩人をひきずりし霊界の冥さに雪降りしきる」
「ねむられぬ汝がため麻薬の水汲めば窓より寒く雪渓は見ゆ」
「幻視とはわれは思はず凍空より樹より脱走する血を見たり」
「千の嘘告げしつめたき愛のため少女の雨の日の夢遊病」
「死者を啄ばむ小鳥を見つつ胸に湧く久しく忘れゐたる狩猟歌」
「私娼窟のごとき天幕に禁色の生終へて死者ら手を伸べあへり」
「死より怖るる生なりししかばせめて暗く花首は夜気に濡れつつなびけ」
後書きより引用。「短歌はぼくの免罪符でした。悪行や情事をあまりに早く知ってしまった生真面目な少年にとっては、それを正当化するための護符がぜひとも必要だったのです。だから短歌は、三十一枚のお祈りの舌となって、長いあいだ、ぼくの悪行の正しいことを喋り続けていました。」
Grouper / Grid of Points
安息と傷の修復、祈りと瞑想。初期の華やかな祭儀的音楽より現在のGrouperの方が好きかもしれない。
デューナ・バーンズ / いとわしき女たちの書
「たとえあなたを捕え、宇宙から引きずりおろしても その脚がレースの布にからみついて動きが取れなくなったとしても あなたはくちづけで世界を狂わせるのだから うつぶせの姿でも。」
「草の上のあなたの体を見つめる 涼しく淡いまなざし。懸命にあの物憂い 長く伸びた太ももに触れようとするときに 聴こえてくるあなたの短く鋭くモダンな 悪徳の叫び。」
「見事に身を投げ うつ伏せに倒れ込む。裸の=女の=赤子は 顔を歪める。あなたの腹部は荘重に 宇宙に膨らみつつ。」(五番街から)
「両膝は遠く離れた位置にあり 重い惑星のよう。両目の虹彩はまるで 涙の抜け殻のよう。 そして巨大な恐怖の金の輪が 耳の罠にかかっている。」
「陽だまりに腰かけている あなたの眠り。かつては身に帯びつつも失った 今より美妙な天資とともに あなたの悪徳の祭壇が 深く沈んでいるのは悲しい。」
「あなたは、炎に濡れた夜明けを灯す 薄明の粉。あなたは、違法なる子らを産み落とした 不動の母。」(違法人の薄明)
「死体A 運ばれてきた彼女は、打ち砕かれた小さな繭、いくらか傷つきし身体は 驚いた月の比喩、そして彼女の穏やかな交響楽のすべては 黄昏の回流。死体B 彼女らは彼女をあちこちせわしく 乱暴に突いた。その体はぎょっとして縮こまる 街の猫を思わせた。力なく横たわる彼女は小さなジョッキの気が抜けたビールのようだった。」(自殺)
デューナ・バーンズの1915年に出版された初期の作品。早稲田文学から転載。